脊椎動物の運動機能の制御においては骨格筋と運動神経のシナプスである神経筋接合部が極めて重要な役割を担う。近年、ゼブラフィッシュの遅筋が神経筋接合部において速筋とは異なる分子構成のアセチルコリン受容体を発現することが示された。本研究はこの新たに発見されたアセチルコリン受容体の生理学的機能を解明し、骨格筋収縮メカニズムの理解を深めることを目的として行われた。 まず、遅筋のアセチルコリン受容体が速筋型の受容体に比べてカルシウムイオンに対して高い透過性を示すことを明らかにした。さらにこのカルシウム透過性の生理学的意義を解明するため、遺伝子改変によって遅筋のアセチルコリン受容体をカルシウム非透過性に改変したトランスジェニック系統を作製した。 このトランスジェニック系統の受精後2日齢の稚魚を用いて運動機能解析を行ったところ、遅筋のカルシウム透過性を失った系統では遊泳運動時の身体の屈曲角度が小さく、遊泳速度も遅くなるなど、運動機能の著しい低下が認められた。さらに興味深いことに、発生が進むにつれて運動機能は向上し、5日齢の稚魚は野生型とほぼ同レベルの運動機能を示した。このことから、遅筋のアセチルコリン受容体を介したカルシウムイオンの流入は発生初期の段階の遅筋の収縮において重要な役割を担うことが示唆された。また、カルシウムイメージングで2日齢の個体の遅筋の活動を解析したところ、遅筋のカルシウム透過性を失った個体ではアセチルコリン投与に対するカルシウム応答が短時間で終息することがわかった。このカルシウム応答の短縮が運動機能の低下に繋がったと考えられる。 ここまでの結果に関して日本生理学会大会および日本動物学会において発表を行った。
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