雌雄間で有利な表現型が異なる現象である性的葛藤は、性的二型の進化の主要な原動力であると考えられているが、性的葛藤形質の原因遺伝子を同定し、その解消に関わる詳細な分子遺伝機構を解明した例は存在しない。本研究では、インドネシア・ポソ湖固有のメダカ科魚類の示す黒色婚姻色をモデルとして、婚姻色多様化の原因遺伝子および性染色体・性決定遺伝子の同定やその機能解析から、性的葛藤遺伝子の同定とその詳細な進化・遺伝機構の解明を目的として実施した。 黒色婚姻色の種間多様性に関わる原因遺伝子については、ポソ湖固有種3種をそれぞれ親種とした雑種F2家系を作出し、QTL解析を実施した。家系作出およびその遺伝解析が遅れたため、すべての家系の解析を実施することができなかったものの、O. nebulosus x O. orthognathus F2家系において、黒色パターンと相関する1遺伝子座を検出した。なお、検出されたQTL周辺に既知の黒色素胞関連遺伝子は存在せず、またその効果が大きくないため、その原因遺伝子については現状決定できていない。性染色体については、最初に行ったPool-seq解析では、3種ともに雌雄間のゲノム分化のレベルが低く、有意に分化した領域を特定できなかった。続いて、別プロジェクトで取得した全ゲノムシーケンスデータを用いたゲノムワイド関連解析を実施した所、O. nebulosusとO. nigrimasで性と有意に関連する遺伝子座を特定した。これらは異なる遺伝子座に存在したため、ポソ湖固有種の種分化や性的二型の多様化に、性染色体がなんらかの寄与を果たしている可能性が示唆された。
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