2023年度は,モウセンゴケ属の種間における花閉鎖速度の違いとその進化的背景を明らかにすることを目的として研究を行った。日本に自生する近縁2種(トウカイコモウセンゴケとモウセンゴケ)を対象とし,温度・光条件を統制した実験室で,花閉鎖の速度およびモウセンゴケトリバに対する胚珠の防御効果を定量化した。その結果,ピンセットによる接触刺激,モウセンゴケトリバによる食害刺激を受けた場合のいずれにおいても,トウカイコモウセンゴケはモウセンゴケと比較して素早く花を閉鎖する傾向にあった。胚珠を食害から保護できた花の割合については,2種間で有意な違いは検出されなかった。フィールドでの調査の結果,トウカイコモウセンゴケはモウセンゴケと比べてより乾燥した土壌に自生しており,葉や茎を食害される頻度が高いことが分かった。これらの結果から,乾燥した土壌ではモウセンゴケトリバが株間を移動しやすく食害を受けやすいために,トウカイコモウセンゴケでは花をより素早く閉鎖する形質が進化した可能性が示唆された。しかし,防御効果には種間の違いが確認できなかったため,今後サンプル数を増やして再度検討するとともに,代替仮説についても検証する必要がある。以上の内容をまとめ,日本植物学会および日本生態学会で発表を行った。また,タイに自生するクルマバモウセンゴケを対象とし,野外環境で花閉鎖速度に関する予備的なデータ収集を行った。この調査の過程で,モウセンゴケ属の別種(Drosera indica complex)の自然史について新たな生態学的知見を見出し,Plant Species Biology誌に論文を投稿,受理された。
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