研究課題/領域番号 |
21K15157
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研究機関 | 滋賀県立琵琶湖博物館 |
研究代表者 |
大槻 達郎 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (60760189)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生物間相互作用 / 生物多様性 / 系統地理 / 昆虫 / 海流散布植物 |
研究実績の概要 |
クロマメゾウムシ(マメゾウ)はハマエンドウの種子に寄生するが、種子の発芽にも寄与する。また、寄生バチがこの昆虫に寄生すると、種子の発芽率は上昇する。これらの昆虫は、植物の世代更新や群集の安定に寄与するが、攪乱環境の海浜で3者の関係がどう維持されているかは不明である。本研究では、海流散布種子に寄生する昆虫群を系統地理解析することで、これらが種子と共分散しているかを検証する。種子は昆虫群の船となり、海浜の生物多様性の維持・創出に貢献するのか?本研究では、植食昆虫-寄生蜂の地理的遺伝構造の類似度を示すことで、これらの分散様式と2次寄生の維持・創出機構の一端を明示する。 現在近畿圏を中心に採集が終了し、形態を比較したところ、日本海側では甲虫図鑑に記載されているように中腿節端・中脛節下面が赤色であったが、太平洋側では黒色が見られ、北に行くほど黒色の個体が多いことが明らかとなった。マメから出てきたマメゾウを飼育することに成功し、冬を越すことができた。これで、飼育環境下でマメゾウ集団間における訪花行動の違いを観察することが容易になった。 マメゾウの系統地理解析(サンガー法):ミトコンドリアゲノム上のCOI・CytBの部分領域をシーケンスしたところ、日本海側では近畿地方と北陸地方の集団間に遺伝的地理構造を確認できたが、瀬戸内海と関東地方(太平洋側)の集団間では地理構造を確認できなかった。マメゾウはハマエンドウの種子に乗って長距離移動することが示唆された。さらに、集団内(20個体前後)の遺伝的多様性を比較したところ、どの集団も多型をほとんど保持していなかった。したがって、現存集団には強いボトルネックがかかっていることが示唆された。 次世代シーケンサーを用いた多型解析(MIG-Seq法):現在マメゾウに関してはシーケンスデータを受領し、解析を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昆虫採集は5月~6月しかできないのだが、コロナウィルスによる行動制限のために遠距離ではサンプルを増やすことができなかった。しかし、近畿圏を中心にクロマメゾウムシ(マメゾウ)のサンプル数を着実に増やせた。それらを用いて次世代シーケンスの解析や、ミトコンドリアゲノム上のCOI・CytBの部分領域の解析は着々と進んでいる。これまでの解析では、海流散布種子に寄生するマメゾウは海流に乗って移動することが示唆された。 また、形態について詳細な観察の結果、太平洋側と日本海側における脚の色の違いを発見することができた。さらに、昆虫の飼育に成功し、次年度は開花期に飼育環境下における行動観察ができるようになった。これらをふまえると、行動制限がある中でも研究は順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
サンガー法シーケンスを用いた系統地理解析:クロマメゾウムシ(マメゾウ)に関して、現在のプライマーでは遺伝的多様性をほとんど検出できなかったため、プライマーの数を増やし、解像度を高めた解析を進めていく予定である。形態や行動が太平洋-日本海側では違うため、もう少し詳細に解析を進めたい。サンプルに関して北海道のサンプルが少なかったため、次年度はこれらの集団や東北の海浜のサンプルを増やし、系統地理解析を進めていく予定である。 次世代シーケンス(MIG-Seq法):解析個体を増やし、系統地理解析や集団遺伝学的解析を進めていく。寄生バチについてもサンプル数を確保できれば、同様の解析を行うつもりである。 寄生バチの系統地理解析:新潟や北海道では寄生バチを多く捕獲できるので、それらの系統解析も進めていく。ハマンドウの種子を入れた袋から寄生バチに寄生するハチが発見された。これがたまたま夾についていた寄生バチなのか、マメゾウに寄生するゾウムシコガネバチの仲間に寄生するハチなのかについて今後調査を進めていく予定である。マメゾウはハマエンドウの種子を長距離移動することが示唆されたため、寄生バチも同じように遺伝的な地理構造の有無を明らかにする また、飼育個体を用いた観察を続け、次年度は集団間における吸蜜行動の違いについて調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染拡大防止による遠距離渡航ができなかったことによる。次年度には北海道をはじめ、飛行機を利用してサンプリングができることが見込まれるため、今後適切に研究に還元できる。
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