研究課題/領域番号 |
21K15159
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石原 千晶 (安田千晶) 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (80771451)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 個体識別能力 / 情報更新 |
研究実績の概要 |
近年、ある個体を他個体と区別する個体識別能力が、高度に発達した脳を持つ脊椎動物だけでなく、無脊椎動物でも数多く確認・報告されている。本研究課題は、このような背景を踏まえ、申請者自らが個体識別能力を実証した、岩礁性小型甲殻類のテナガホンヤドカリを主たる対象種として、本種の個体識別能力の破棄と情報更新プロセスを検証するものである。 2022年度は、本研究課題における「大鋏脚の自切による情報更新の詳細な内容」の検証に着手した。テナガホンヤドカリは繁殖期のメスをめぐるオス間闘争において、1度闘争に負けた劣位なオスが、以前の闘争とは別の優位オスに比べて、自身を打ち負かした同一の優位オスに再闘争を挑まない、という個体識別を示す。しかし、同一の優位オスが再遭遇時に武器形質である大鋏脚を失っていた場合は、通常時よりも再闘争頻度が高まり、闘争が長引く傾向が観察されている。本研究は、この「大鋏脚のない優位オス」を、劣位オスが (1) 以前とは別の大鋏脚のない相手、(2) 以前と同じだが大鋏脚が消失した相手、のどちらだと認識しているか推察するものである。 実験では、劣位オスを、以前とは別の大鋏脚のない相手、あるいは以前と同じだが大鋏脚の消失した相手と再遭遇させ、闘争行動を比較した。もし、劣位オスが遭遇相手を、過去との同一性を問わず単に「大鋏脚のない相手」と認識していた場合、劣位オスの行動は群間で変わらないことが予想される。しかし、実験の結果、以前と同じだが大鋏脚の消失した相手と遭遇した場合、そうでない場合と比べて闘争頻度がより低下した。これは、ヤドカリが同一個体の変化に気づく(大鋏脚の消失)、という新たな認知能力の発見を期待させる。 得られた成果は予報的に年度末の国内学会で発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
成果はいくつか得られているものの、学会発表に留まっているため。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は得られたデータの解析をさらに進め、大鋏脚の消失に気づけているか、という問いに一定の決着を目指す。また、大鋏脚を最初から持たない個体に対する個体識別が成立するかを検証する。これは、大鋏脚の再生に伴って個体識別が破棄・更新されるかを明らかにするために必要な確認事項である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がオンラインだったため、一部旅費として使う予算が残額となった。これらの予算残額は、2023年度は録画機材の一部購入するため、および英文校閲費として使用する。
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