研究課題/領域番号 |
21K15166
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
赤司 寛志 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (00808644)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 温度応答 / 遺伝子発現 / ニホンヤモリ / ミナミヤモリ / RNA-seq |
研究実績の概要 |
外温性動物の体温は温度環境に依存して変化するが、生命活動を維持する上で低体温や高体温を常に許容できるわけではなく、体温の過度な上昇を防ぐには自身にとって危険な温度を感知して避けることが重要になる。本研究の目的は、熱刺激に対する動物の応答行動にTRPA1がどのように関連しているかを明らかにすることであり、これにより生体熱センサーの進化的変化が行動の変化を制御している可能性を検討する。前年度までの研究において、ニホンヤモリと近年なミナミヤモリは温度刺激に対して異なる行動的な応答を示すことが明らかになった。そこで、ミナミヤモリのTRPA1配列決定を見据えてRNA-seqを実施した。これまでの研究で、ニホンヤモリにおいて26度、29度、33度の温度一定条件に晒した際のRNA-seqを実施している。ミナミヤモリのTRPA1参照配列の取得と並行して、遺伝子発現応答の種間差を検出する目的で、ミナミヤモリにおいても同様に26度、29度、33度の温度一定条件に晒した際のRNA-seqを実施した。遺伝子発現の全体的なパターンを比較したところ、ミナミヤモリにおいては3つの温度条件において遺伝子発現パターンに明確な差が確認できたものの、ニホンヤモリにおいてはミナミヤモリのパターンに比べると不明瞭であることが明らかになった。爬虫類の過去のRNAseqにおいても、温度刺激に対して明確な発現パターンの変化が確認できたことから、ニホンヤモリの比較的不明瞭な発現パターンは、ニホンヤモリ特有の応答というよりも、実験操作に問題があった可能性が浮上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ミナミヤモリでRNAseqを実施し、論文化に向けた解析は概ね完了した。3つの温度条件における温度応答性の遺伝子を多数検出し、ニホンヤモリとの発現パターンの比較から、行動解析で得られた温度応答の種間差を説明する候補遺伝子の検出に努めた。しかし、種間比較を実施したことで、ニホンヤモリの温度刺激に対する遺伝子発現パターンの変化が比較的不明瞭であることが明らかになった。先行研究において、別種のトカゲを用いた温度刺激に対するRNAseqでは、明確な遺伝子発現の温度応答が観察され、ミナミヤモリの発現パターンは先行研究に近いものであったことから、この不明瞭な遺伝子発現応答は、種特異的な応答というよりも、むしろ実験操作の問題の可能性が考えられる。こうした理由から、評価としてやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ニホンヤモリを用いたRNAseqの追試を行なう。遺伝子発現パターンの種間比較は、温度応答の生理的機構の理解において基礎情報として今後も利用されることになるため、より正確な遺伝子発現を捉えていることを明確にするために必要な追試である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に得た結果と、2023年度に得た結果を比較したことで、2022年度に得た結果(遺伝子発現解析)に技術的な問題があった可能性がある。質の高いデータを用いて論文化するため、追試を行なう。そこで、ニホンヤモリを3つの温度条件(26度、29度、33度)に5日間さらしたのち、RNAseqによって遺伝子の温度応答パターンを明らかにする。
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