研究課題
2022年度までに、現代日本人の遺伝子型と表現型の地域的多様性が生じた過程に関する集団形成モデルを提唱した。2023年度は、より古い時代、すなわち縄文時代の日本列島ヒト集団に着目した。所属研究室で全ゲノムシーケンシングを行った25個体および先行研究で解析済みの17個体の縄文時代人の全ゲノム情報を用いて、縄文人の成立過程や遺伝的適応を解明するための解析を行った。本研究ではまず、低カバレッジの縄文人ゲノムについてインピュテーションを行い遺伝子型の推定を試みたところ、本手法によって縄文人の遺伝子型を精度良く決定できることが確認できた。インピュテーション後の42個体の縄文人ゲノム情報をもちいて、毛髪やエタノール・アルデヒド代謝能力などの現代東アジア人に特徴的な表現型を規定する複数のSNPについて、縄文人におけるアリル頻度を確認した。縄文人は、これらの東アジア人に特徴的な表現型を規定するアリルの頻度が低く、東アジア人の祖先的な形質を保持していることが示唆された。縄文人における正の自然選択の検出を行ったところ、縄文人において自然選択が働いた遺伝子座は現代の東アジア集団とは異なっており、縄文人が特異な選択圧を受けていた可能性が示された。具体的には、縄文人において、血中の中性脂肪を高める方向に正の自然選択が働いた可能性が示唆された。これについては、縄文人は狩猟採集を生業としていたことから、農耕を主な生業とする他の東アジア人と異なり、飢餓状態への遺伝的な適応である可能性が考えられる。
3: やや遅れている
大規模ゲノムデータの受け取りやその後の取り扱いに、当初の想定より多くの時間を要しているため。
今後は、縄文時代人の全ゲノムデータを用いて、日本列島人の集団動態を明らかにするための解析を行う。
現在進行途中の縄文時代人の集団動態解析を行い、国際誌に投稿するため。
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