研究課題/領域番号 |
21K15182
|
研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 博文 日本医科大学, 医学部, 助教 (40779435)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 感覚受容 / 飢餓 / シグナル伝達 / 行動可塑性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、動物が過去の経験に基づいて、感覚情報の処理機構を調節するメカニズムを明らかにすることを目的としている。これまでに、線虫が経験した塩濃度を記憶し、餌と共に経験した場合はその塩濃度への誘引、飢餓と共に経験した場合は忌避行動を示す現象について主に研究を行ってきた。その結果、塩を受容する感覚神経と介在神経の間のシナプス極性が経験塩濃度依存的に逆転し、またそれがグルタミン酸シグナルによって制御されることが明らかになった。感覚神経-介在神経間のグルタミン酸シグナルの動態についてさらに詳細な解析を行った結果、感覚神経から放出されるグルタミン酸量の変化や、介在神経における興奮性と抑制性の2種類のグルタミン酸受容体の寄与が組み合わさることでシナプス極性の逆転が引き起こされる可能性が示唆された。 また飢餓条件/摂食条件での細胞の活動やシグナル伝達の違いについて、先行研究からいくつかの細胞内分子が寄与する可能性が想定されるが、詳細については不明な点が多かった。これについて検証を行うため、哺乳類の細胞を用いた実験系を立ち上げた。具体的には、細胞が飢餓状態に置かれた際、どのような遺伝子発現変化が起きるかをRNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seqなどの手法を用いて網羅的に解析することを試みた。また線虫で飢餓時の行動などに寄与することが示唆されている遺伝子が、哺乳類でも機能しているかを上述の手法を含め解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、線虫が餌とともに経験した塩濃度の記憶と、それに基づく行動可塑性を制御する分子・神経機構については、おおよそ明らかにすることができた。また飢餓状態においてこれらの機構が調節されるメカニズムについてもある程度解明の見通しが立っている。これに加えて、線虫の全脳レベルでのカルシウムイメージング(4Dイメージング)を用いた実験から、網羅的な神経活動の変化とその調節機構も明らかになりつつある。研究成果についても、前年に引き続き論文として発表することができた。そのため、本研究課題の当初の計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
線虫を用いた実験については、おおむね必要な分は実施されており、今後は4Dイメージングデータの解析やシミュレーションなどが主になる予定である。またこれまでに明らかになった線虫の細胞で機能している分子機構について、哺乳類細胞を用いた系でも保存されているか、もし差があるならどの様な部分に違いがあるのか、などの検証を行う。これによって、線虫だけに限らない普遍的なメカニズムを明らかにすることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルスの影響が依然として強く残っており、そのため当初の想定よりも実験や出張などでの支出が減少することになった。しかしその分次 年度ではより多くの費用が発生することが想定される。また次年度では、これまでに得られたデータのより高度な解析や、高等動物を対象とした実験などより発展的な研究を計画しており、それらのために助成金は使用される予定である
|