研究課題/領域番号 |
21K15186
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
木矢 星歌 金沢大学, 生命理工学系, 研究協力員 (40793196)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経科学 / 記憶 / 初期応答遺伝子 / 初期応答遺伝子 / 性行動 / 昆虫 / ドーパミン / 学習 |
研究実績の概要 |
経験から学習し、その記憶によって後の行動を変化させることは、動物が生存や繁殖の競争を勝ち抜くために必須の能力である。ショウジョウバエをモデルとしたこれまでの研究で、私はドーパミン神経におけるHr38(保存された即初期遺伝子であり、哺乳類Nr4a1のホモログ)の発現が長期記憶に必要であることを見出した。Hr38は核内受容体をコードしており、ターゲット遺伝子の発現を制御することにより神経機能を変化させることが予想される。ドーパミン神経が他の神経の機能を調節することで学習を成立させる機構は多く報告されているが、ドーパミン神経自体の機能変化による記憶のメカニズムは知られていない。本研究ではショウジョウバエの求愛条件付けをモデルとして、ドーパミン神経における活動依存的な即初期遺伝子の発現が長期記憶に寄与するメカニズムを解明することを目指す。 本年度は温度依存的にRNAiを作用させる遺伝学的手法により、特定のドーパミン神経でHr38を一時的にノックダウンしその長期記憶への影響を検証した。この際、求愛条件付け学習の3日後に記憶テストを行う方法で、学習中、学習後1日目、2日目、3日目のそれぞれでHr38をノックダウンした。その結果、学習中および学習後の一時的なHr38ノックダウンで長期記憶が障害されることを明らかにした。また、雄の求愛行動をつかさどるfruitless発現神経でHr38をノックダウンした際にも長期記憶が障害されることを見出した。 今後はHr38の発現が記憶に及ぼす影響をさらに細胞群を限定して詳細に調べるとともに、Hr38のドーパミン神経の活動への影響を調べるためのイメージング解析を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は妊娠出産のため、また新型コロナウイルス感染症対策のために研究室における実験作業時間が当初の想定より短くなった。そこで、リモートワークでのデータ解析や次年度以降の実験準備時間を予定より長く取ることとした。総合的には研究状況におおむね順調な進展が見られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ドーパミン神経におけるドーパミンの合成・放出量の解析 Hr38はドーパミン合成経路遺伝子の発現にかかわることが示唆されている。そこで、ドーパミン神経におけるドーパミン合成酵素の発現量を定量的に分析し、Hr38をノックダウン・過剰発現した場合と比較する。また、求愛条件付けの前後でドーパミン合成酵素の発現量が変化するかを解析する。さらに、学習によってドーパミンの放出量に変化が生じるかを明らかにする。具体的には、ドーパミン神経に人為的に活性化可能なイオンチャネルを発現させ、活性化させた際に放出されるドーパミン量が学習前後で変化するかを調べる。この際、ドーパミンの検出が可能な蛍光センサーを用いてイメージング解析を行う。 カルシウムイメージングによるドーパミン神経の活動解析 学習によってドーパミン神経の活動様態が変化するかを明らかにするため、カルシウムイメージング解析を行う。ドーパミン神経にカルシウムセンサーを発現させた雄のショウジョウバエにメスを提示し、接触させた際のの神経活動を解析する。また、Hr38発現の有無による神経活動パターンが変化するかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
妊娠出産により研究時間に制限が生じたため、当初予定していた実験の一部を次年度以降実施することとした。また、当該年度に行った実験はすでに所持していた物品で行うことができた。次年度は主にショウジョウバエ系統や飼育物品の購入、分子生物学実験に使用する機器・試薬の購入のために助成金を使用する予定である。
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