研究課題
経験から学習し、その記憶によって後の行動を変化させることは、動物が生存や繁殖の競争を勝ち抜くために必須の能力である。学習成立の際、ドーパミン神経が活動し、投射先の神経細胞の機能を修飾することが昆虫から哺乳類まで多くの学習・記憶モデルで報告されている。本研究は、このように神経機能のモジュレーターとして働くと考えられてきたドーパミン神経自体が、学習時に活動依存的に機能変化するという新たな記憶メカニズムの存在を検証することを目的としている。これまでに私はショウジョウバエの求愛学習モデルを用いて、神経活動依存的に発現する初期応答遺伝子Hr38がショウジョウバエの長期記憶に重要であることを見出した。その際、ドーパミン神経におけるHr38発現が記憶に影響した。これらのことから学習中のドーパミン神経における活動依存的なHr38の発現が記憶を制御する可能性があると考え、本研究期間中にさらに詳細な形跡を行った。本研究開始までの実験から、ドーパミン神経でHr38を過剰発現させると、本来ならば短期記憶しか形成されない短時間の刺激でも長期記憶が形成されること、またドーパミン神経でHr38をノックダウンすると長期記憶の維持に障害が見られることがわかっていた。本研究ではさらに、ドーパミン神経の中でも脳の性決定に重要な遺伝子であるfruitlessを発現する神経の一部におけるHr38発現が長期記憶の維持に重要であることを明らかにした。また、学習中および学習後のHr38発現が長期記憶に最も影響することを見出した。さらに、別の初期応答遺伝子Stripeの発現を利用してショウジョウバエの脳で活動した神経の解析を行う手法についてまとめ、論文発表を行った。今後は学習中のHr38発現がドーパミン神経に及ぼす影響についてさらに解析するとともに、Stripeの記憶における役割についても明らかにしていきたい。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 120 ページ: -
10.1073/pnas.2303318120