研究課題
RNA結合タンパク質の一種であるfused in sarcoma (FUS)は、可逆的に凝集度を変化させて分散状態、滴状、およびゲル状に形態を変える液-液相転移現象を示すことで知られる。この相分離が破綻するとFUSは異常凝集して封入体を神経細胞体に形成する。本研究ではFUS相転移を制御する要因の1つとしてFUSのアルギニンメチル化とFUS相互タンパク質に注目し、各疾患におけるFUSメチル化の違いを明らかにするとともに、FUSのプロテオーム解析を行うことを目的とする。具体的には①FUS遺伝子変異のある家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS-FUS)、②FUS蓄積を伴う前頭側頭型認知症(FTLD-FUS)、③孤発性ALS、④正常コントロールの計4群の脳・脊髄検体を用いて、免疫沈降法で各サンプルからFUSを抽出し、質量分析法により各アルギニン残基のメチル化状態(脱メチル化、メチル化、ジメチル化)を評価する。次に疾患ごとにFUSプロテオーム解析を行ってFUSに相互作用するタンパク質を明らかにする。2021年度は国内と海外の各ブレインバンクからALS-FUS(n=2)、FTLD-FUS(n=8)、孤発性ALS(n=4)、正常コントロール(n=6)の脳・脊髄検体を取り寄せたのち、FUS免疫沈降とその後の質量分析に用いる抗体、ビーズ、バッファー等の最適化を行って、免疫沈降でFUSを抽出し、SDS-PAGEに続いて行ったゲル銀染色にてFUSと思われるバンドを確認した。このゲルから切り出したバンドを質量分析に提出しており、現在解析中である。
3: やや遅れている
免疫沈降法後、銀染色におけるFUSバンドが視認できず、当初質量分析に進むことができなかった。この理由としてFUSはヒト脳検体には少量しか存在しない可能性、FUSタンパク質の可溶化の問題、抗FUS抗体の問題、免疫沈降に用いるバッファーの問題が想定された。抗体や各種バッファーの選定と適切な濃度決定のため各種工程を繰り返し、最適と考えられる抗体・バッファーを用いることで、銀染色において一定収量を見込めるバンドを確認できたため、各サンプルにつき質量分析を行って現在解析中である。
質量分析により、疾患ごとのFUSのアルギニン残基メチル化のマッピングを行う。これにより、正常と比較してどのアルギニン残基にどのようなメチル化の異常があるかが判明する。そしてこの責任部位たるアルギニン残基に変異を起こした変異コンストラクトを作成し、マウス神経細胞に導入して実際に相分離異常や異常凝集が起こるかを確認する。またインタラクトーム解析によって疾患ごとのFUS相互作用タンパク質の違いが判明すれば、このタンパク質をFUSと混ぜることでin vitroやin vivoの系においてFUS相分離にどのような影響が起こるかを観察することができる。このようにしてFUS相分離異常をきたすメチル化や相互タンパク質を同定することを目的とする。
ブレインバンクからの検体取り寄せと、質量分析のための免疫沈降法の最適化を行う際に一定期間を要した。これにより2021年度は予定していた質量分析のうち一部しか行えなかったために、2021年度に予定していた予算額を次年度に使用することとなった。
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