研究課題
RNA結合タンパク質の一種であるfused in sarcoma (FUS)は、可逆的に凝集度を変化させて分散状態、滴状、およびゲル状に形態を変える液-液相転移現象を示すことで知られる。この相分離が破綻するとFUSは異常凝集して封入体を神経細胞体に形成する。本研究ではFUS相転移を制御する要因の1つとしてFUSのアルギニンメチル化に注目し、各疾患におけるFUSメチル化の違いを明らかにすることを目的とした。具体的には①FUS遺伝子変異のある家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS-FUS)、②FUS蓄積を伴う前頭側頭型認知症(FTLD-FUS)、③孤発性ALS、④正常コントロールの計4群の脳検体を用いて、免疫沈降法で各サンプルからFUSを抽出し、質量分析法により各アルギニン残基のメチル化状態(脱メチル化、メチル化、ジメチル化)を評価した。脳サンプルは国内と海外の各ブレインバンクから取り寄せた。ALS-FUS(n=2)、FTLD-FUS(n=8)、孤発性ALS(n=4)、正常コントロール(n=6)につき、抗FUS抗体による免疫沈降でFUSを抽出後、SDS-PAGE及び銀染色にてFUSからなるゲル片を切り出し、消化酵素で処理したのちにLC-MS/MS測定を行った。FUSにおけるアルギニン全37残基の、疾患ごとのメチル化状態のマッピングを行ったところ、正常コントロールに比べてFTLD-FUSではアルギニン残基が脱メチル化傾向にあり、特定のアルギニン残基では有意に脱メチル化していたことが分かった。この特定のアルギニン残基における脱メチル化がFUSの相分離亢進を引き起こしている可能性があり、今後はこれらのアルギニン残基に着目してFUSの動態解明を行う予定としている。
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