本研究では、中枢神経系での機能やがん細胞におけるフェロトーシス制御機能が近年着目されている脂質分子であるエーテルリン脂質に着目し、これまで明らかにされていない物理刺激受容に対する役割を明らかにすることを目的として、ショウジョウバエモデルを利用した研究を進めた。その結果、エーテル脂質合成遺伝子であるAGPSのノックアウトショウジョウバエ個体では温度や機械刺激といった物理感覚刺激に対する応答が減弱することを見出し、また物理感覚受容体発現神経のみでの発現抑制によっても同様の表現系を示すことを明らかにした。続いて、物理感覚受容体タンパク質とエーテルリン脂質との機能連関を解析するため、エーテル脂質合成の有無を制御した培養細胞を樹立し、温度受容体TRPA1チャネルおよび機械刺激受容体PIEZOチャネルのパッチクランプを用いた物理的刺激に対する電気生理学的機能解析を行った。その結果、エーテル脂質はTRPA1の活性化温度閾値を低下させること、PIEZOの物理刺激に対する応答性を変化させることを明らかにした。また、エーテルリン脂質による細胞膜物性の変化を細胞膜の物理化学的特性を観察するプローブを用いた蛍光イメージングによる解析を実施し、細胞膜の相状態がエーテル脂質により変化することを見出した。以上、本研究ではエーテル脂質合成遺伝子が感覚受容を制御すること、そしてエーテルリン脂質が細胞膜の性状の変化などを介して物理感覚受容体イオンチャネルの直接的な活性化制御を行うことを明らかにした。
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