研究実績の概要 |
動物は学習により外的環境に適応する。その過程における脳内変化は、神経回路の再構築として現れ、可塑的なシナプスの結合変化がそれを可能にしていると考えられている。本研究課題では、運動学習中の大脳皮質運動野におけるシナプス可塑性を観察し、神経回路がどのように結合変化をみせるのかについて、網羅的解析を行っている。 大脳皮質錐体細胞には、シナプス後構造として、樹状突起上にスパインと呼ばれる突起が存在する。このスパインが新生することは、新たな神経回路が形成されたことを示す形態変化である。運動学習中には運動野においてスパイン新生が頻繁に観察されるが、この新生されたスパインに結合するシナプス前軸索の由来については不明であった。本研究では、運動学習中の運動野におけるスパイン動態を2光子顕微鏡により生体観察し、さらにその脳組織標本を用いて、免疫組織化学や電子顕微鏡観察を経ることにより、新生スパインへの入力元の同定に成功した。それにより、学習中に出現するスパインには皮質錐体細胞由来の軸索が、学習した技能を維持する際には皮質下(視床)からの軸索終末がシナプスを形成することが判明した(Sohn et al., Science Advances, 2022)。すなわち、シナプス前細胞の由来によって、シナプス後構造の動態が特徴的な時間的変化をみせることが示唆された。これは、これまで学習の延長として捉えられてきた記憶のメカニズムが、実は異なる神経回路が担当していることを示す所見であった。
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