研究実績の概要 |
覚醒時の学習は脳の神経細胞を活性化して、興奮性シナプス伝達を担うグルタミン酸受容体であるAMPA受容体の量を増加させる。反対に、睡眠は記憶関連脳領域である大脳皮質や海馬のシナプスのAMPA受容体の量を平均的に減少させる。しかし、個々のシナプスにおける受容体数の変化は解明されてこなかった。本研究はAMPA受容体のGluA1サブユニットを蛍光可視化するために、SEP (Super Ecliptic pHluorin)-GluA1を用いた。SEPはpH依存的な緑色蛍光タンパク質であり、細胞外と細胞内のpHの違いを利用して、細胞膜上の機能的な受容体を選択的に蛍光可視化出来る。また、神経細胞の形態を蛍光可視化するために、赤色蛍光タンパク質のdsRed2を用いた。SEP-GluA1とdsRed2の発現を誘導するために、E14.5胚に子宮内電気穿孔法を適用した。その後、成体マウスにおいて、頭蓋骨にガラス窓を設置した。そして、二光子顕微鏡を用いて、一次運動皮質の2/3層錐体細胞が有する1層の樹状突起において、運動学習と睡眠を通じて経時イメージングを行った。 運動学習によってAMPA受容体量が特に増加した一部のスパイン(Maxスパイン)は、運動学習後の睡眠や断眠の影響を受けなかった。一方で、その他のスパインは運動学習後の睡眠時にAMPA受容体量が減少し、この減少は断眠によって阻害された。そして、運動学習後のAMPA受容体量の減少は、運動記憶成績と相関していた。これらより、運動学習後の睡眠は、大部分のシナプスをクールダウンさせて、運動記憶を担うシグナルを相対的に強化していると考えられる。本研究に関して原著論文(Miyamoto et al., Nat Commun, 2021)および総説論文を執筆した(Miyamoto, Neurosci Res, 2022; Miyamoto, Neurosci Res, 2023)。
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