研究課題/領域番号 |
21K15205
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
高橋 光規 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (30788922)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Ca2+イメージング / マイクロ流路デバイス / 線虫 / ライブイメージング / 行動解析 / 神経回路機能 |
研究実績の概要 |
本研究では,線虫C. elegansをモデル動物として,神経活動の光制御・記録・行動の記録を同時に行う実験系を開発し,回避行動を制御する神経回路の機能を明らかにすることを目的とする.初年度は,自由に動き回る線虫に刺激を与え,Ca2+センサーGCaMP6fにより神経細胞の応答を記録する系の構築を試みた.具体的には,大口径レンズを組み合わせて広域蛍光顕微鏡を自作し,PDMS樹脂性のマイクロ流路デバイス内で線虫に浸透圧刺激を与え,感覚神経ASHの応答を記録することに成功した.取得した動画データは自作のMATLABスクリプトにより解析し,線虫のセグメンテーション,線虫同士の衝突分離解析,神経細胞の位置同定,姿勢解析による行動の同定,神経応答の蛍光による定量を半自動で行うことに成功した.この手法により,浸透圧刺激に対して線虫は後退もしくは方向転換といった回避行動を示すが,いずれの行動出力の場合でも感覚神経の応答レベルは同程度であることが明らかになった.したがって,後退もしくは方向転換のいずれを出力するかは,より下流の介在神経細胞の活動によって決まるのではないかと考えられる.そこで,下流の神経細胞AIB,AVAのそれぞれにGCaMP6fを発現させた遺伝子組み換え株を作製し,浸透圧刺激を与え,神経応答と行動の記録を行った.しかし,これらの神経細胞は感覚神経と異なり,神経応答のシグナルレベルが小さいため,ノイズに埋もれてしまって神経応答の検出が難しかった.以上より,初年度は,自由に動く線虫に刺激を与え神経活動と行動を対応づける系の開発に成功し,感覚神経ASHの活動と回避行動の対応関係を得ることができた.次年度以降は,神経応答の小さい介在神経の活動を取得できるように装置の改良を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では,線虫の神経活動と行動を記録するため3 mm×3 mmの行動アリーナを備えたマイクロ流路デバイスを活用する予定であった.初年度においては,そのスループットを高めるため,広域蛍光顕微鏡の開発と解析プログラムの作製に成功し,最大14 mm×14 mmの極めて広い範囲の蛍光撮影を行うことが可能となった.したがって,使用するマイクロ流路デバイスの大きさも10 mm×10 mmに拡張することができ,実験系のスループットが当初予定よりも大幅に向上した.さらに,複数匹の線虫を同時に観察するにあたって,線虫同士が衝突しても,画像処理によって個体毎に識別する解析アルゴリズムを確立することにも成功した.この広域蛍光顕微鏡の開発によって,当初予定していた顕微鏡装置よりも16倍程度明るい蛍光像の取得が可能となり蛍光観察が安定化したこと,また,実験系をハイスループット化できたということから,当初の計画以上に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
初年度は,浸透圧刺激に対する回避行動と感覚神経の応答を取得・記録することに成功した.一方で,感覚神経の下流にある介在神経の応答は,シグナルレベルが小さいために応答検出が難しいという課題が生じた.この理由の1つとして,開発した広域蛍光顕微鏡の対物レンズ開口数が小さいために,十分な蛍光シグナルの取得ができていないということが挙げられる.そこで,今後は,より大きな開口数を持つ大口径の対物レンズを用いることで蛍光取得感度を向上させて,介在神経細胞の応答を記録できるよう改良を試みる.また,データ解析スクリプトによる神経細胞位置の検出は,神経細胞の存在する範囲を指定して,最大蛍光輝度の検出により行っている.神経細胞に発現したGCaMP6fが暗い場合にはこの方法での検出精度が低いため,線虫の体全体の自家蛍光を取得し,頭部・尾部の判定を行って神経細胞位置を推定するアルゴリズムの開発も行う.これにより,解析がより安定化すると期待される.これらの改良した装置を用いて,感覚神経ASHの下流にある介在神経AIB,AVA,RIMから浸透圧刺激に対する応答を取得し,それぞれの神経細胞が回避行動においてどのような神経応答を示すのかを明らかにしていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては,解剖学会(大阪)に参加予定であった.当初,現地開催の予定だったが,コロナウイルスの影響によりオンライン開催に変更されたため,国内旅費の支出がなくなった.余剰分は実験消耗品の購入に充てたがなおも差額が生じたため,残りを翌年度に繰り越して装置改良用の物品費として用いる予定である.
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