研究課題
酸素は好気性生物の生存に必須である。諸器官の中でも、特に酸素消費量が高い脳においては細胞の置かれる酸素環境が重要となる。しかし、覚醒している動物の脳内における細胞内酸素濃度の可視化に血中以外で成功した研究はなく、それを司る制御機構も未だ活発な論争の的である。また、虚血などの病的な低酸素状態以外の生理的な酸素濃度変動の生物学的意義は、脳高次機能の文脈において特に未解明である。本研究では、脳高次機能に伴う脳内酸素濃度変動及びその制御機構の生理的意義の追究を行う。本年度は組織深部のイメージングを見据え、二光子励起顕微鏡とリン光寿命測定装置を組み合わせた実験系の確立を行った。マウス個体レベルでの組織深部の観察を可能にする手法として、二光子励起顕微鏡を用いたライブイメージングが挙げられる。二光子励起顕微鏡を用いた生体組織イメージングは、生体透過性の高い光の波長を用いることができるため、個体を傷つけることなく非侵襲的に生体内の細胞動態を観察することが可能である。また酸素プローブとしてはBTPDM1を使用した。このプローブはIr錯体をベースとしており、酸素濃度依存的にリン光の寿命が変化するものである。リン光強度とは対照的に、リン光寿命はプローブ濃度に依存しないパラメーターであり、プローブの拡散が制限され取り込み量(濃度)が低い組織深部においても酸素濃度の定量が可能であることが期待される。本研究を端緒とし、細胞のエネルギー代謝を考慮した新しい脳高次機能研究を開拓する。
2: おおむね順調に進展している
本年度は組織深部のイメージングを見据えた二光子励起顕微鏡とリン光寿命測定装置を組み合わせた実験系の確立を試みた。リン光寿命によって酸素濃度を定量可能なBTBDM1プローブを導入し、周囲の酸素濃度の変化により、単離したアストロサイトの細胞内リン光寿命が変化していく様子が捉えられた。したがって、リン光寿命測定を達成したと考えられ、生体内における酸素濃度測定のための準備は順調に進んでいる。
本年度確立した組織深部のイメージングを見据えた二光子励起顕微鏡とリン光寿命測定装置を組み合わせた実験系を用いて、酸素濃度測定のための検量線を正確に引くことを目指し、組織及び個体レベルにおける実験系へと拡張を試みる。また生体内の酸素センシングに重要なTRPA1カチオンチャネルを細胞種特異的にノックアウトしたマウスを用いて解析を行う。
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Frontiers in Physiology
巻: 12 ページ: 757731
10.3389/fph ys.2021.757731