研究課題/領域番号 |
21K15211
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
播磨 有希子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20712946)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 交感神経 / 消化器 / 節前神経 |
研究実績の概要 |
脊髄損傷によって、運動神経だけではなく自律神経の機能障害も引き起こされる。脊髄損傷に関する研究の多くは運動機能の麻痺に着目し、高次中枢と運動神経との失われた接続を回復あるいは代替する努力が基礎や臨床の各分野で続けられている。しかし、心血管系、呼吸器系、消化器系など自律神経によって制御される生命に必須の調節機能の障害は、患者のQOLを著しく低下させるにも関わらず治療法はほとんど調べられていない。そこで、本研究では自律神経(特に交感神経)の遺伝学的特徴を明らかにし、臓器機能の特異的な制御を目指した。 交感神経は、脊髄に存在する節前神経から出発し、節後神経を介して臓器機能を制御する2段階構造を持つことが知られている。そこで、臓器を出発し、一段階上流の節前神経を標識するために狂犬病ウイルスを用いたトランスシナプス標識法を試した。しかし、その標識法は中枢神経系ではよく使われるツールであるのにも関わらず、消化器機能を制御する交感神経系では機能しなかった。そこで、消化器に軸索を投射する節後神経に着目し、それらの細胞体が集結する腹腔・上腸間膜神経節に逆行性のAAVを直接注入することにより、節前神経を蛍光標識することに成功した。そして、脊髄を透明化し、ライトシート顕微鏡によって節前神経を可視化することにより、これまで知られていなかった新たな特徴を明らかにした。さらに、標識された節前神経を、脊髄切片を用いてin situ hybridizationにより解析し、消化器機能を制御する節前神経の遺伝学的特徴の解明に成功した。 臓器機能を制御する交感神経節前神経の遺伝学的特徴について調べられた報告はこれまでに無く、本研究の成果は、臓器機能の自律神経制御メカニズムを理解する上で重要な発見と言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臓器機能を制御する交感神経節前神経を直接標識するため、狂犬病ウイルスを用いたトランスシナプス標識法を試したが、中枢神経系とは異なり交感神経系ではシステムがうまく動かなかった。そこで、実験計画を変更し、消化器機能を制御する節後神経の細胞体が集結する腹腔・上腸間膜神経節に逆行性のAAVを直接注入した結果、節前神経を蛍光標識することに成功した。さらに、当初の計画では標識された節前神経を用いたRNA-seqを行う予定だったが、昨年、節前神経を含む脊髄の細胞を用いてsingle cell RNA-seqを行ったという報告があった。その論文で公開されたデータを解析することにより、標識された節前神経の遺伝学的特徴を特定することに成功した。 以上のことから、当初の計画通りにいかない点はあったが、それを補うための代替実験に成功しており、当初の目的に向かって着実に研究計画を進めることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
消化器機能制御に関わる節前神経の遺伝学的特徴を明らかにすることができたので、現在その遺伝子の下流にCreをKnock-inしたTgマウスを作製している。今後は、作製したTgマウスの評価を行い、特定の節前神経を薬理学的に操作することにより、消化器機能を操作できるか試す。また、狂犬病ウイルスを用いたトランスシナプス標識法により、特定の節前神経は、脳のどこの領域から制御を受けているか、またその遺伝学的特徴を調べる計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の変更により、自身でRNA-seqをする必要がなくなったため次年度使用額が生じた。
|