脊髄損傷などによって起こるさまざまな臓器機能不全は、患者のQOLを著しく低下させるにも関わらず治療法はほとんど調べられていない。しかし交感神経の操作によって臓器機能を自在に制御することができるようになれば、それらの問題を解決できるかもしれない。 交感神経は、脊髄に存在する節前神経から出発し、節後神経を介して臓器機能を制御する2段階構造を持つことが知られている。2021年のNature neuroscience誌に報告された脊髄における一細胞解析の結果から、節前神経の遺伝学的な特徴には多様性があることが報告されたが、それらの臓器特異性についてはまだ調べられていない。そこで、我々は下部胸髄に存在する異なる2種類の節前神経の特定に成功した。それらの投射先は異なり、Cartpt陽性節前神経は腹腔・上腸管膜神経節(CG/SMG)に軸索を投射し、Otr陽性節前神経は副腎髄質に軸索を投射することを明らかにした。今年度はそれぞれの節前神経をGq/DREADDシステムによって活性化させる系を立ち上げた。その結果、Cartpt陽性節前神経を活性化させると血糖値に影響を与えず腸機能を抑制し、Otr陽性節前神経を活性化させると腸機能に影響を与えず血糖値を上昇させることを明らかにした。このように、本研究は、腹腔臓器機能を制御する交感神経について異なる節前神経が異なる臓器機能を制御するということを見つけた初めての報告になる。
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