研究課題/領域番号 |
21K15220
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三ツ沼 治信 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (20823818)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリオール / 光レドックス触媒 / HAT触媒 / クロム触媒 / 求核付加反応 |
研究実績の概要 |
ポリオール骨格は多くの生物活性分子、医薬品、機能性材料に頻出する重要構造である。この骨格構築に関しては歴史的に多くの手法が開発されてきたが、反応効率、工程数や原子効率が課題になることが多く理想的な合成法は未だ存在しない。今回、申請者は無保護アルコールを直接原料とし、アルコールα位で生成した金属種による求核付加反応を行い、ポリオール類の網羅的合成法を確立することを目指した。無保護アルコールを原料とすることで廃棄物を全く出さない単工程での炭素骨格伸長が実現できる。具体的には無保護アルコールα位のラジカル的C-H活性化を契機とする有機クロム種の触媒的生成を目指した。またこの方法論をアルデヒドやエポキシドといった求電子剤に適用することにより触媒的な1,2ジオール骨格と1,3ジオール骨格形成反応を達成する。さらにこれを連続反応に応用し、革新的ポリオール合成方法論を構築することを目指した。 まず申請者は無保護アルコールを直接原料とした求核付加反応を検討することとした。金属触媒としてチタン触媒を用いたところ、所望の生成物が確認されることが明らかになった。本反応はチタン触媒としてCpTiCl3が最良の収率を与えた。この反応条件は原料としてアルコールのみならず、既存法で適用が不可能であった単純なアルカンのアルデヒドやケトンへの付加が進行した。なおアルデヒドやケトンは芳香族、脂肪族どちらでも問題なく付加が進行する。これは今までに例が無く、基質一般性が極めて高い反応であることが明らかになった。メカニズム実験や計算化学の共同研究により、低原子価チタン触媒がC-H引抜きによってできた有機ラジカルがカルボニル化合物に付加して生じるアルコキシラジカル種を補足することが鍵になっている(Mitsunuma, H. et al. submitted.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず申請者は無保護アルコールを直接原料とした求核付加反応を検討することとした。求電子剤をアルデヒドとして金属触媒としてクロム触媒、HAT触媒としてチオリン酸、光触媒としてアクリジニウム塩を用いて初期検討を開始した。種々の反応条件や配位子を検討したが所望の1,2ジオール生成物は全く確認されなかった。そこで金属触媒としてチタン触媒を用いたところ、所望の生成物が確認されることが明らかになった。本反応はチタン触媒としてCpTiCl3が最良の収率を与えた。この反応条件は原料としてアルコールのみならず、既存法(Mitsunuma, H. et al. JACS 2020.)で適用が不可能であった単純なアルカン(例えばベンジル位やエーテルα位のC-H)のアルデヒドやケトンへの付加が進行した。なおアルデヒドやケトンは芳香族、脂肪族どちらでも問題なく付加が進行する。これは今までに例が無く、基質一般性が極めて高い反応であることが明らかになった。メカニズム実験や計算化学の共同研究により、低原子価チタン触媒がC-H引抜きによってできた有機ラジカルがカルボニル化合物に付加して生じるアルコキシラジカル種を補足することが鍵になっている(Mitsunuma, H. et al. submitted.)。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果により、提案にあった1,2ジオール合成ができることが明らかになった。しかし本反応系は求電子剤としてエポキシドを用いた場合、全く反応が進行しない。それゆえ、1,3ジオールの合成は新しい反応系が必要である。今後の研究推進としてはチタン触媒を改良し、エポキシドを活性化して開環しながらラジカルを生成する。一方で無保護アルコールから生じたαアルコキシラジカルとのラジカルクロスカップリングにて1,3ジオールを合成することを目指す。本反応では二種の不安定ラジカルが交差カップリングを起こす必要があるが、Ti触媒にアルコールを近接させる部位(例えばホウ素原子など)を導入することで所望の選択性にてカップリングが進行することを想定している。これら反応を利用して、あらゆるポリオールの効率的合成に適用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年8月に所属の薬学系研究科で発生した火災の影響により、当初予定していた実験計画と変更が生じた。特に消耗品の使用に関して、8月から約三か月間火災の影響により、実験が滞ったため、その使用が一時的に減ることとなった。この分に関しては次年度以降に繰り越して使用する予定である。
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