研究課題/領域番号 |
21K15224
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
松本 拓也 金沢大学, 薬学系, 助教 (40800214)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 触媒反応 / 均一系触媒 / 脱酸素反応 / バイオマス |
研究実績の概要 |
医薬品は生体内での機能を果たすために通常いくつかの極性基を有する。低分子薬をはじめとする人工生理活性物質の多くは、経済合理性に優れる低酸化状態の石油を原料として、段階的にその酸化状態および分子量を上げていく方向で合成されることが基本である。このようなボトムアップ型による合成戦略は、石油由来の共通原料から多様な化合物群を作り出すうえでは非常に効率的な方法である。しかしながら、近年、医薬品標的としては高難度のタンパクなども標的化されるようになり、必要とされる分子が巨大かつ複雑になって、標的分子の開発コストおよび大量製造時の環境負荷の増大が課題となっている。一方、天然生理活性物の中には、リピンスキーの法則を越えるような分子量と高酸化状態を有するものが数多く存在する。しかしながら、これらの化合物は高酸化状態のために誘導体化による構造の多様化が一般的に難しい。そこで、石油原料からボトムアップ型に医薬様構造を構築する方向とは反対に、高酸化状態天然物中の酸化状態を減らすトップダウン型による合成戦略が、新たな医薬様構造を環境負荷少なく構築する基盤となりえるのではないか、と考えた。 本年度は基礎的検討として、天然生理活性物群のいくつかを想定したモデル物質を用いて酸化状態を低減させる反応系の確立を行った。その結果、糖類を標的として想定したモデル系において、想定通りに酸化状態を低減させることに成功した。本知見は、医薬様構造への応用のみならず、化成品・再生可能エネルギー分野への応用も期待される。本年度は、本成果を基に1件の学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、フェニルプロパノイド類および糖類を標的とする、各々二段階変換を経た脱酸素反応の検証を行った。フェニルプロパノイド類を標的とした検証では、モデル基質を用いて酸化反応と脱酸素反応を実施した。いずれでも主に金属錯体を用いて検証を行ったが、酸化反応では原料の重合と思われる反応が進行し、脱酸素反応では原料の残存のみが確認され目的物の生成は観測されなかった。また、脱酸素反応においては有機触媒での検証も行ったが、原料の残留のみということに変わりはなく、目的物はやはり観測されなかった。一方、糖類を標的とした検証では、異性化反応と脱酸素反応の二段階を実施し、各工程で目的物が生成していることを各種分光学的手法により確認した。この糖類を標的とした検証に関して学会発表を1件行った。 以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では初年度に予備的な結果が出た糖類の変換反応の検証に主に注力し、各工程での収率向上に向けた反応条件探索を行う。また並行して、フェニルプロパノイド類への応用も志向した芳香族置換不飽和炭化水素化合物類の酸化反応の検証も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会がオンライン開催になったことにより、旅費が予定より少なくなったため若干の繰越額が生じた。 次年度では繰り越し分と合わせて全学当初計画通りに執行予定である。
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