医薬品は生体内での機能を果たすために通常いくつかの極性基を有する。低分子薬をはじめとする人工生理活性物質の多くは、経済合理性に優れる低酸化状態の石油を原料として、段階的にその酸化状態および分子量を上げていく方向で合成されることが基本である。このようなボトムアップ型による合成戦略は、石油由来の共通原料から多様な化合物群を作り出すうえでは非常に効率的な方法である。しかしながら、近年、医薬品標的としては高難度のタンパクなども標的化されるようになり、必要とされる分子が巨大かつ複雑になって、標的分子の開発コストおよび大量製造時の環境負荷の増大が課題となっている。一方、天然生理活性物の中には、リピンスキーの法則を越えるような分子量と高酸化状態を有するものが数多く存在する。しかしながら、これらの化合物は高酸化状態のために誘導体化による構造の多様化が一般的に難しい。そこで、石油原料からボトムアップ型に医薬様構造を構築する方向とは反対に、高酸化状態天然物中の酸化状態を減らすトップダウン型による合成戦略が、新たな医薬様構造を環境負荷少なく構築する基盤となりえるのではないか、と考えた。 本年度は前年度に得られた糖類を用いた二工程の自己酸化・還元的反応の最適化を行い、外部の酸化剤/還元剤の添加なしにその酸化状態を高効率に低減させる条件を発見した。また本年度の新たな知見として、フェニルプロパノイド類への応用を志向した芳香族置換不飽和炭化水素化合物類の変換反応の開発時に発見した、新規有機ヨウ素化合物の生成条件の最適化および基質適応反応の解明を行った。本知見は、医薬様構造への応用のみならず、化成品・再生可能エネルギー分野への応用も期待される。 本年度は、本成果を基に2件の学会発表を行った。
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