研究実績の概要 |
令和4年度は紫外励起蛍光寿命イメージング装置を用い、相分離液滴内における(1) ataxin-3の凝集に対するポリグルタミン鎖の効果を解明し、(2) Fused in sarcoma (FUS)のゲル化・凝集過程の追跡に成功した。 タンパク質ataxin-3が凝集すると、マチャドジョセフ病の原因となる。Ataxin-3はC末端側にグルタミンが連結したポリグルタミン鎖(polyQ)を持ち、通常の水溶液中ではpolyQの鎖長が50程度を越えると容易に凝集する。しかし液滴を形成したataxin-3の凝集に対するpolyQ効果は不明であった。本研究ではpolyQ長が28, 64残基のataxin-3 (Q28, Q64)の相分離液滴を調製し、自家蛍光寿命およびスペクトル測定を実施した。その結果、Q28とQ64はよく似た時間変化を示した。このことは同様の構造変化を起こし、凝集体を形成することを意味している。この結果は水溶液中におけるataxin-3のpolyQ効果とは異なっており、液滴におけるataxin-3の凝集機構の特異性を示唆している。 さらに紫外励起蛍光寿命イメージング装置を拡張し、蛍光異方性測定を実施した。筋萎縮性側索硬化症関連タンパク質FUSは液-液相分離により液滴を形成し、ゲルや凝集体に遷移する。しかしゲルや凝集体への変化を定量的な指標に基づいて観測する手法はこれまでなかった。本研究ではFUS液滴を作製し、チロシン (Tyr)の蛍光異方性減衰曲線を測定した。液滴状態の蛍光異方性はナノ秒以内にほとんど解消したが、インキュベート後ではナノ秒以降でも有意な異方性が観測された。このことはゲル化や凝集に伴い、Tyr周辺の粘度が増大することを意味する。本研究は蛍光異方性測定から粘度を解析することで、液滴・ゲル・凝集体といった状態を定量的に判別できる可能性を示す。
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