生体内リン脂質は、活性酸素種などにより容易に酸化され「酸化リン脂質」は生じる。これら分子種は多彩な生理活性を示すことから、新たな疾患原因物質・バイオマーカー候補分子として、注目されている。一方で、酸化リン脂質は分析に要する構造情報およびデータベースが大きく不足していることから、これまで数種の特定の酸化リン脂質のみが評価の対象とされてきた。そこで本研究では、未知化合物の探索に極めて有用な高分解能質量分析計(HRMS/MS)によるノンターゲット分析を活用し、酸化脂質の体系的構造解析技術およびデータベース構築を目指す。さらに確立したシステムを応用し、培養細胞・酸化ストレス疾患モデル動物において変動する酸化リン脂質の包括的解析および、それらの生理学的役割について明らかとする。 本年度は、「(目的-2)培養細胞内酸化リン脂質の包括的解析への応用、および(目的-3)疾患モデル動物を用いた検証」を進めた。前年度までに構築したホスファチジルコリン(PC)由来酸化物構造データベースをさらに拡大し、他の脂質クラスの酸化脂質の解析手法を開発した。本手法を用いることで、マウス初代肝細胞中にて生成した酸化脂質の解析が可能であった。さらに、本手法は実験動物由来生体試料への応用も可能であり、非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)モデルマウスへと応用したところ、NASH疾患発症時において特にトリグリセリド由来酸化物が顕著に増加することを見出した。
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