研究課題/領域番号 |
21K15245
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
扇田 隆司 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (80737263)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | αシヌクレイン / 神経変性疾患 / アミロイド線維 / 二次核形成 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、神経毒性を示す異常型αシヌクレインの構造特性の解明を目的として、神経毒性の主体となるアミロイド凝集核の形成が病態環境下で促進される分子機構の解明と凝集核の構造特性の同定を行う。これにより、異常型αシヌクレインを標的とした神経変性疾患の診断・治療分子の設計基盤となる知見を取得する。 2021年度は、パーキンソン病の発症に関わるαシヌクレインのN末側変異(A30PとA53T)とC末領域欠損(Δ104-140とΔ123-140)がアミロイド線維の形成に与える影響を調べた。大腸菌発現系を用いて単離・精製したαシヌクレインについて、線維特異的蛍光プローブであるチオフラビンTを用いて凝集・線維形成過程を追跡した。この測定で得られた線維形成曲線に対してFinke-Watzkyの核形成-自己触媒線維伸長モデルを用いた速度論的・熱力学的解析を行った。生理的濃度範囲での野生型αシヌクレインの線維化は、タンパク質濃度への依存性が低く、核形成と線維伸長はともにエンタルピー的にもエントロピー的にも不利であることがわかった。これに対して、A30PとA53T変異はモノマーが自発的に凝集核を形成する一次核形成をエンタルピー的に促進しており、一方でΔ123-140とΔ104-140は既存線維の表面にモノマーが結合して自己触媒的に凝集核が生じる二次核形成を促進することが示唆された。これらの結果から、αシヌクレインのN末領域はモノマーから凝集核への構造転移の制御に関わっており、C末領域は線維とモノマーの結合を介した二次核形成の制御に関わることを明らかにした。このような神経変性疾患に関連した変異と修飾がαシヌクレインの凝集・線維化に与える影響に関する速度論的・熱力学的知見は、神経変性疾患の発症とαシヌクレインの凝集・線維化の相関を理解する上で重要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、神経変性疾患の発症に関わる異常型αシヌクレインの形成機構の解明と構造特性の同定を目的とする。2021年度は、神経毒性の中心とされるアミロイド凝集核の形成に対して、αシヌクレインのパーキンソン病関連N末変異とC末領欠損が与える影響を明らかにした。この研究成果の中で特に重要な知見は、パーキンソン病に関連したC末領域の欠損が、既存線維の表面で自己触媒的な凝集核が進行する二次核形成過程を促進することを見出した点である。C末領域欠損型αシヌクレインフラグメントは、プリオン様の細胞間伝播性を示すことが報告されている。また、二次核形成は毒性中間体であるアミロイド凝集核核の増幅過程として近年注目されている。本研究成果は、C末領域欠損型αシヌクレインの毒性発現・細胞間伝播における二次核形成の関与を示唆するものであり、今後、C末領域がどのようにして二次核形成の進行を抑制しているのかを分子レベルでより詳細に解析していくことで、αシヌクレインを標的とした神経変性疾患治療分子の開発に有益な知見が得られると期待される。そのため、現在までの研究進捗状況として、おおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2021年度に確立した実験手法と得られた知見に基づいて、ヒトとマウスのαシヌクレインの凝集・線維化機構を比較・解析して、αシヌクレインの線維化制御機構の解明を進める。ヒトとマウスのαシヌクレインは95%のアミノ酸配列相同性を示すが、マウスαシヌクレインは速やかに凝集して線維化する一方で、ヒトαシヌクレインとは異なり神経毒性は示さない。この特性を利用して、ヒトとマウスのαシヌクレインを基盤とした改変型αシヌクレインを設計し、凝集・線維化や脂質膜相互作用などの機能特性を物理化学的に解析するとともに、細胞傷害性などを生化学的・分子生物学的手法を用いて調べることで、各種物性パラメータと細胞毒性との相関を明らかにする。 また、αシヌクレインの生理機能に関わるシナプス小胞との相互作用が凝集・線維化および細胞傷害性に与える影響を調べるため、人工脂質膜小胞であるリポソームを用いて、脂質膜の共存ならびに脂質膜組成の変化とαシヌクレインの凝集・線維化、細胞毒性との相関を調べる。これにより、細胞毒性の発現に関わるαシヌクレインの構造・機能特性の同定を目指す。 このために、まずは円偏光二色性スペクトル測定やフーリエ変換赤外分光スペクトル測定を用いたαシヌクレインの二次構造評価方法や、アクリロダンなどの環境応答性蛍光プローブの部位特異的修飾を用いたαシヌクレインの各構造領域の微小構造変化の検出方法を確立する。また、αシヌクレインの細胞毒性を評価するための実験系の構築も同時に進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に支払う予定であった論文投稿料が採択時期がずれたために次年度に繰り越しになった。また、細胞や脂質を用いた実験を当該年度に開始予定であったが、実験予定がずれ込んで次年度開始となった。以上の理由から次年度使用額が発生した。時期は変更となったが、これらの資金は次年度に当初目的のために使用する予定である。
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