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2022 年度 実施状況報告書

アミロイド凝集核を構成する異常型αシヌクレインの構造特性の物理化学的解明

研究課題

研究課題/領域番号 21K15245
研究機関京都薬科大学

研究代表者

扇田 隆司  京都薬科大学, 薬学部, 助教 (80737263)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードαシヌクレイン / パーキンソン病 / 神経変性疾患 / アミロイド
研究実績の概要

本研究課題では、アミロイド凝集過程で形成される異常型αシヌクレインの構造特性の解明を目的として、神経毒性の主体となるアミロイド凝集核の形成が病態環境下で促進される分子機構の解明と凝集核の構造特性の同定を行う。これにより、異常型αシヌクレインを標的とした神経変性疾患の診断・治療分子の設計基盤となる知見を取得する。
2022年度は、配列が95%同一であるが線維化速度が著しく異なるヒトとマウスのαシヌクレインについて、物理化学的手法を用いた線維化メカニズムと分子内相互作用の比較解析を実施した。各タンパク質は大腸菌発現系を用いて作製し、線維化は線維特異的蛍光色素であるチオフラビンTを用いて追跡した。分子内相互作用は、αシヌクレインの任意の領域に導入したトリプトファン残基とC末領域に標識したアクリロダンとの蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET)を測定することで評価した。
解析の結果、ヒト-マウスαシヌクレインはともに凝集核依存性線維形成モデルに従って凝集すること、ヒト-マウス間でのαシヌクレイン線維化速度の違いは主に87番目残基のミスマッチに起因すること、さらにマウス型のN87残基は疎水性の高いNon-amyloid β component (NAC)領域やpre-NAC領域とC末領域の分子内相互作用を阻害することを明らかにした。これらの結果から、αシヌクレインC末領域の分子内相互作用が線維化の制御に重要な役割を担うことが示唆され、αシヌクレインの構造制御法の開発につながる知見が取得できた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題は、神経変性疾患の発症に関わるαシヌクレインのアミロイド凝集核形成機構の解明と構造特性の同定を目的とする。これまでの成果として、パーキンソン病に関連したαシヌクレインのC末領域欠損が既存線維の表面で自己触媒的に凝集核形成を加速する二次核形成の促進に寄与することを見出した。また、アミロイドコア構造を構成するNAC領域におけるヒト-マウス間での87番目ミスマッチ残基がC末領域とNACおよびpre-NAC領域との分子内相互作用を変化させることで、線維化挙動を著しく変化させることを明らかにした。これらの成果からαシヌクレインのC末領域が凝集核形成制御に中心的な役割を果たすことが示唆されており、凝集核形成の制御戦略のひとつとしてC末領域を介した分子内および分子間相互作用の制御が有望と期待される。このように、これまでの研究でαシヌクレインの凝集核形成機構に関する有益な知見が得られていることから、研究進捗状況としては、おおむね順調に進行しているといえる。今後、脂質膜などの外的要因の共存によるC末領域の相互作用変化が凝集核形成に与える影響を分子レベルで詳細に解析していくことでαシヌクレイン分子の相互作用制御法に関する知見の取得を試みる。また、これまでに見出した凝集核形成を促進するC末領域欠損型および87番目残基置換型αシヌクレインについて細胞毒性評価と構造解析を行い、毒性発現に関わる構造特性の同定を行う。これらの研究により、αシヌクレインを標的とした神経変性疾患治療分子の開発に有益な知見が得られると期待される。

今後の研究の推進方策

今後は、生体内でαシヌクレインと共存する脂質膜などの外部因子がC末領域の相互作用ならびに凝集核形成に与える影響を分子レベルで詳細に解析していく。これにより、αシヌクレイン分子の相互作用制御を介した凝集核形成抑制法の開発につながる知見を取得する。これまでの研究で、線維化の追跡手法と物理化学的なデータ解析法は既に確立している。また、生体内に存在するシナプス小胞モデルとして人工脂質膜リポソームを用いるが、その調製方法やαシヌクレインとの相互作用解析系も確立できている。
マウスαシヌクレインは線維化しやすいが神経毒性は示さないことから、ヒト-マウス間で異なるαシヌクレイン凝集核の物性が毒性発現の有無に寄与すると考えられる。一方、二次核形成を促進するC末領域欠損型αシヌクレインフラグメントはプリオン様の細胞間伝播を示す。そこで、ヒト-マウスαシヌクレインとその87番目残基置換体ならびにC末領域欠損型フラグメントを用いて細胞毒性評価と構造解析を行って相関を解析することで、毒性発現に関わる構造特性の同定を試みる。培養細胞を用いた細胞毒性評価系、赤外分光法や円偏光二色性測定を用いた二次構造評価法、原子間力顕微鏡観察や電子顕微鏡観察による線維構造評価系などは現時点で構築済みである。
以上の計画に則って今後の研究を推進することで、αシヌクレインを標的とした神経変性疾患治療分子の開発に有益な知見の取得を目指す。

次年度使用額が生じた理由

当該年度に支払い予定であった論文投稿料が採択時期がずれたために次年度に繰り越しになった。また、実験予定の変更のため、今年度までに予定していた実験の一部が次年度の開始となった。そのため、次年度使用額が発生したが、これらの資金は次年度に当初目的のために使用する予定である。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] Plantainoside B in <i>Bacopa monniera</i> Binds to Aβ Aggregates Attenuating Neuronal Damage and Memory Deficits Induced by Aβ2023

    • 著者名/発表者名
      Fukuda Aina、Nakashima Souichi、Oda Yoshimi、Nishimura Kaneyasu、Kawashima Hidekazu、Kimura Hiroyuki、Ohgita Takashi、Kawashita Eri、Ishihara Keiichi、Hanaki Aoi、Okazaki Mizuki、Matsuda Erika、Tanaka Yui、Nakamura Seikou、Matsumoto Takahiro、Akiba Satoshi、Saito Hiroyuki、Matsuda Hisashi、Takata Kazuyuki
    • 雑誌名

      Biological and Pharmaceutical Bulletin

      巻: 46 ページ: 320~333

    • DOI

      10.1248/bpb.b22-00797

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Mechanisms of enhanced aggregation and fibril formation of Parkinson’s disease-related variants of α-synuclein2022

    • 著者名/発表者名
      Ohgita Takashi、Namba Norihiro、Kono Hiroki、Shimanouchi Toshinori、Saito Hiroyuki
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 12 ページ: 6770

    • DOI

      10.1038/s41598-022-10789-6

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Design and Synthesis of 6‐O‐Phosphorylated Heparan Sulfate Oligosaccharides to Inhibit Amyloid β Aggregation2022

    • 著者名/発表者名
      Uchimura Kenji、Nishitsuji Kazuchika、Chiu Li‐Ting、Ohgita Takashi、Saito Hiroyuki、Allain Fabrice、Gannedi Veeranjaneyulu、Wong Chi‐Huey、Hung Shang‐Cheng
    • 雑誌名

      ChemBioChem

      巻: 23 ページ: e202200191

    • DOI

      10.1002/cbic.202200191

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] アミロイド形成タンパク質の凝集核形成特性の速度論的評価2023

    • 著者名/発表者名
      扇田隆司、南波憲宏、河野弘樹、斎藤博幸
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] 脂質膜環境におけるヒト及びマウスαシヌクレインの凝集・線維化挙動2022

    • 著者名/発表者名
      扇田隆司、河野弘樹、島内寿徳、斎藤博幸
    • 学会等名
      膜シンポジウム2022
  • [学会発表] ヒトとマウスのαシヌクレインの比較による線維化制御機構の解析2022

    • 著者名/発表者名
      扇田隆司、河野弘樹、森田いずみ、大山浩之、島内寿徳、小林典裕、斎藤博幸
    • 学会等名
      第43回生体膜と薬物の相互作用シンポジウム
  • [学会発表] アポEアイソフォームを特異的に検出可能なイムノアッセイ系の構築2022

    • 著者名/発表者名
      坂井瑚都、中野未悠、扇田隆司、木口裕貴、森田いずみ、大山浩之、長尾耕治郎、小林典裕、斎藤博幸
    • 学会等名
      第12回京都四大学連携研究フォーラム
  • [学会発表] αシヌクレインの線維化及び細胞毒性に対する高凝集性領域の寄与2022

    • 著者名/発表者名
      河野弘樹、鎌田真央、南波憲宏、扇田隆司、森田いずみ、大山浩之、長尾耕治郎、小林典裕、斎藤博幸
    • 学会等名
      第72回薬学会関西支部大会

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公開日: 2023-12-25  

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