αシヌクレイン凝集核はパーキンソン病などの神経変性疾患の病原因子であるが、不安定な構造体なので単離・精製が難しく、物性解析は進んでいない。本研究では、凝集核を標的としたαシヌクレイン関連神経変性疾患の治療法開発に向けて、凝集核の構造特性と形成メカニズムの物理化学的解明を試みた。 2023年度は、ヒト-マウスαシヌクレインの凝集性の速度論的解析から、両者で異なる87番目残基がN末-C末領域間の分子内相互作用を変化させることで核形成速度を制御するホットスポット残基であることを見出した。これはαシヌクレイン凝集核形成阻害分子の設計基盤となりうる重要な発見である。この成果はSci. Repに原著論文として公表した。 また、αシヌクレインとその変異体、および全身性アミロイドーシス関連アポリポタンパク質A-I N末フラグメントの凝集・線維化挙動の比較解析から、凝集核の形成量がタンパク質の疎水性度に依存することを見出した。この結果は、タンパク質の疎水性度の制御が凝集核形成量の制御につながる可能性を示唆する。この成果に関する総説をBiophys. Physicobiol.に公表した。 さらに、αシヌクレインの神経細胞間伝播機構に関する研究成果をRegen. Ther.に原著論文として公開した。 また、パーキンソン病の診断・治療法の開発に向けて、パーキンソン病発症との関連が示唆されているアポEタンパク質のE4アイソフォームを特異的に認識する抗体を新規に開発し、その成果をFEBS Lett.に原著論文として公表した。 以上、αシヌクレイン凝集核を標的とした神経変性疾患治療分子の設計基盤となりうる実験成果を得ることができた。
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