研究課題
ハブ(Protobothrops flavoviridis)の毒液に含まれる塩基性PLA2アイソザイム(BPII)が、ハブ咬傷の後遺症の原因である筋壊死症状の責任因子であることは知られているが、筋壊死誘導メカニズムは未だ明らかになっていない。一方、当研究室では、筋壊死抑制効果を示す抗BPIIモノクローナル抗体の作製に成功している。本研究課題は、この抗体のFab部分をBPIIの筋壊死誘導メカニズムの解明等に利用することを目指して、抗BPII Fabの安定性および結合親和性を高めることを目的とした。最終年度は、抗BPII Fabの結合親和性(KD値)をnMオーダーにすることを目指した。当初は荷電アミノ酸を導入した様々な変異体を作製していたが、最終的に、安定化をねらって導入したH鎖I11L変異によって、KD値が改善することが判明した。この変異体はコンセンサスデザインに基づいて設計したものであり、H鎖11番目における出現頻度が1%未満のIleから、この部位での出現頻度が最も高いLeuへと置換した。この変異でKD値が改善したことから、Fabの結合親和性におけるH鎖Leu11の重要性が示唆された。また、同様の手法でデザインしたH鎖T84L変異体は、KD値は野生型と同等だったが、安定性の指標である変性中点温度(Tm)が野生型と比較して6.5℃上昇した。さらに、H鎖I11L/T84L変異体は、nMオーダーのKD値に加え、Tm値は7.1℃の上昇を示した。すなわち、本研究課題の期間全体を通じて実施した、抗体可変部フレームワーク領域を標的とした変異体設計により、抗BPII Fabの安定性と結合親和性をともに高めることに成功した。この改良型Fabは、筋壊死因子BPIIの作用メカニズム解明のための有用なツールとなり、筋壊死抑制効果が高いハブ咬傷治療薬の開発につながることが期待される。
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