本研究では、低酸素応答誘導剤である PHD 阻害薬による表皮細胞由来のアレルギー増悪化因子 TSLP の発現抑制機構の解明を目指した。 複数の TSLP 産生誘導剤に対する PHD 阻害薬の効果を評価したところ、アトピー性皮膚炎病変部に増生する黄色ブドウ球菌等により活性化する TLR2 受容体を介したヒト表皮細胞株での TSLP 発現誘導に対して PHD 阻害薬が抑制作用を示した。siRNA 等を用いた検討により、PHD 阻害薬は低酸素誘導因子である HIF1α および HIF2αを介して TLR2 受容体の下流の JNK/AP-1 経路を抑制することが明らかとなった。 HIF1α、2α活性化を介した JNK 抑制機構として JNK の脱リン酸化を担う DUSP ファミリーの発現誘導に着目したところ、HIF1α、2αはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を介して複数の DUSP の発現を誘導していることが示唆された。さらに、HDAC 阻害剤により PHD 阻害剤による TSLP 発現抑制作用もキャンセルされた。これらのことから、PHD 阻害薬は HIF1α、2α、HDAC の協働により DUSP の発現を誘導し、それらにより JNK/AP-1 経路の活性化を抑制することで TSLP 発現を抑制することが示唆された。 また、マウスアレルギー感作モデルにおいて PHD 阻害薬の処置を行ったところ、TSLP 産生抑制作用および抗アレルギー作用を示すことが明らかとなった。これにより PHD 阻害薬の新たなアトピー性皮膚炎治療薬としての可能性を示唆することができた。以上より、PHD 阻害薬によるエピジェネティック制御を介した TSLP 発現抑制機構およびその応用性について明らかとした。
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