研究課題/領域番号 |
21K15272
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
笠原 由佳 九州大学, 医学研究院, 特任助教 (50838208)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 発達期 / 神経細胞 / ミクログリア |
研究実績の概要 |
熱性けいれんは乳幼児に頻発し、将来の脳機能障害やてんかんの発病に寄与することが示唆されている。こうした長期に及ぶ影響は、熱性けいれんにより生じる神経回路変性に起因すると考えられている。しかし、変性に至る機序の詳細は不明であり、これをターゲットとした治療法の確立は成されていない。 そこで、申請者は熱性けいれんに伴う神経回路変性における分子細胞生物学的メカニズムの解明することを目的とし、研究を行ってきた。特に、熱性けいれんにおいて認められる、神経細胞の過剰興奮とミクログリアの活性化に着目し、これらの細胞連関の関与について検討する。In vitro及びin vivoモデルを相補的に使用し、組織化学的、遺伝学的、薬理学的手法を用いることで、「熱性けいれんの発症により過剰に興奮した神経細胞がミクログリアの活性化を誘起し、神経回路変性が生じる」という仮説を検証する。 申請者は、まず、熱性けいれんモデルマウスを用いて、熱性けいれん誘導後に神経回路変性が生じるか免疫組織化学的手法により検討した。この結果、熱性けいれん誘導による神経回路への著しい影響は確認できなかった。そこで、熱性けいれんと同様に乳幼児期において特に発症率が高く、将来の脳機能への影響が懸念されている、小児てんかんに着眼した。乳幼児期のマウスにカイニン酸を投与し、てんかん重積状態を誘発し、小児てんかんを模倣した。さらに、このモデルマウスで成体期におけるけいれん感受性が増大することを発見し、乳幼児期の発作が将来の神経回路機能に影響を与える可能性を見出した。今後は乳幼児期のてんかん重積による神経回路変性機構における分子細胞生物学的メカニズムを追究する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初めに、熱性けいれんモデルマウスを作製するため、生後11日齢の乳幼児期のマウスをヘアドライヤーによって誘導した高温条件に曝した。これにより、マウスの体温を上昇させ、複雑型熱性けいれんの特徴である、長時間持続・繰り返す発作を誘導した。次に、このモデルマウスを用い、熱性けいれん誘導後に神経回路変性が生じるか検討した。神経回路変性の程度は、複雑型熱性けいれんにおける組織学的変化として報告されている、海馬歯状回の顆粒神経細胞の樹状突起及びスパインの異常形成 (Railmakers et al., Epilepsia, 2016) を指標として評価した。さらに、抗興奮性プレ及びポストシナプスマーカーによる免疫染色を行い、シナプス密度への影響を検証した。しかしながら、これらの組織化学的解析の結果、熱性けいれん誘導後における著しい神経回路の変性は認められなかった。そこで、熱性けいれんと同様に乳幼児期において特に発症率が高い、小児てんかんに着目した。小児てんかんを模倣するため、生後5日齢のマウスにカイニン酸を皮下投与し、てんかん重積状態を誘発した。このマウスが成長し、8週齢になった際にカイニン酸を再び投与したところ、8週齢で初めてカイニン酸を投与したコントロール群に比べて、けいれん感受性が増加する傾向がみられた。
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今後の研究の推進方策 |
作製した小児てんかんモデルにおいて、成長後のけいれん感受性が増加したことから、神経回路変性が生じた可能性が考えられる。今後は、乳幼児期におけるてんかん重積が神経回路に及ぼす影響について検討する。てんかんの発症により、興奮性および抑制性シナプスの数と機能のバランス(E/Iバランス)が破綻することが報告されている。このモデルマウスにおいても同様の変化が生じるか、抗興奮性もしくは抑制性シナプスマーカーによる免疫染色を行い、各シナプス密度を定量することで検証する。次に、生じた神経回路変性機構に神経細胞とミクログリアの連関が関与するか検討する。発作誘導後いつまで神経細胞の過剰な興奮が持続し、その後いつミクログリアの活性化が生じるか検討する。神経活動マーカー (c-fos) 発現の経時変化を観察し、神経細胞の興奮が持続する期間について検討する。さらに、ミクログリアマーカー (Iba1) と活性化に応じて発現が増加するリソソームマーカー (CD68) による免疫染色を行い、CD68発現率の定量により、ミクログリアの活性状態を評価する。次に、神経細胞の過剰な興奮、ミクログリアの活性化、神経回路変性がそれぞれ関連した事象か検討する。まず、神経細胞の過剰な興奮がミクログリアの活性化に関与するか検討する。神経細胞培養系にカイニン酸を加え、神経細胞の過剰な興奮を誘起する。この培養培地をミクログリアの単離培養系に加え、ミクログリアが活性化するか検討する。ミクログリアが活性化した場合、発作によって神経細胞由来因子が遊離され、ミクログリアの活性状態を制御する可能性が考えられる。次に、ミクログリアの活性化が神経回路変性に関与するか検討する。ミクログリアの活性化抑制作用を持つミノサイクリンを発作誘導時に投与し、成体期における神経回路への影響が抑制されるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大のため、物品の納品等が遅れ、当初予定していた実験計画に変更が生じたため。また、学会や出張の予定がなくなり、使用額が減少したから。
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