本研究では、炎症性腸疾患(IBD)をはじめとする消化管炎症において、細胞外トラップであるNETsやMETsの病態への関与とその誘導機構をPADI2とPADI4に着目して明らかにするために、阻害剤などの薬理学的ツールや遺伝子改変マウスを用いて検討した。PADI2およびPADI4KOマウスを用いて、TNBS誘起大腸炎モデルでの病態の評価を行ったところ、WTマウスに比べて各KOマウスは大腸炎の病態を改善した。各KOマウスを用いた結果と同様に、PAD阻害剤であるCl-amidineや細胞外トラップ阻害剤であるDNaseⅠを投与することでTNBS誘起大腸炎の病態は改善した。このとき、大腸組織における好中球およびマクロファージ由来の細胞外トラップの誘導は抑制された。またin vitro実験系から好中球細胞外トラップはPADI4を介し、TNBS誘起大腸炎の誘導に関与することが示唆されたが、マクロファージ由来の細胞外トラップはPADI2およびPADI4を介さない可能性があることがわかった。DSS誘起大腸炎モデルにおいては、PADI2およびPADI4KOマウスで、WTマウスに比べて病態が悪化する結果となった。特に、下痢・下血スコアが悪化していた。慢性的なDSS誘起大腸炎モデルにおいても同様の結果となった。しかし、炎症性サイトカインの発現等から病態を抑制するような結果も得られているため、下痢・下血の誘導にはPADI2およびPADI4を介した細胞外トラップの誘導以外の作用があると考えられる。以上の結果から、大腸炎の誘導機序によって細胞外トラップは病態の悪化にも保護にも関与し、PADI2およびPADI4は細胞外トラップ非依存的に病態へ関与する可能性があることが明らかとなった。
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