本研究は、抗真菌薬アムホテリシンB (以降、AmB) (作用点は真菌細胞膜に存在するエルゴステロールに結合することによる膜障害) の抗真菌活性を特異的に増強する化合物 (それ自身では抗細菌活性や抗真菌活性、細胞毒性は示さない化合物) について、標的分子と作用機序の解明、およびin vivoレベルでの効果の検証を目的としている。本年度も、引き続き、環状テトラペプチド化合物であるネクトリアチド (以降、NCT) に焦点を当てて研究を遂行し、以下に示す進捗を得た。1)NCTを構成するアミノ酸を種々のアミノ酸に置換した鎖状および環状のNCT誘導体を合成し、得られたAmB抗真菌活性増強作用効果について、特許の出願と、論文発表を行なった。2) 脂質を固相に吸着させたELISA法により、NCTおよびNCT誘導体は、幾つかの種類の真菌細胞膜脂質成分に作用し、その中でも特にエルゴステロールに親和性を示すこと、一方で、哺乳類細胞膜に存在するコレステロールには親和性を示さないという知見を得た。また、コレステロールを細胞膜にもつ赤血球に対し、NCT類単独では溶血活性を示さず、さらにAmBと併用しても、AmBが示す溶血活性 (コレステロールにもわずかに結合してしまうことに起因) も増強しなかったことから、ELISA法の結果は細胞レベルの実験からも支持された。さらに、化合物で1時間処理した真菌より、有機溶媒を用いて化合物を抽出し、その存在量をLC-MSで確認したところ、AmB単独処理時と比較して、NCT類とAmBを共に処理した場合に、真菌におけるAmBの存在量が濃度依存的に増加していることを見出した。これらの結果から、NCT類は真菌細胞膜脂質に作用することで、1菌体あたりのAmB結合量を増加させ、結果としてその抗真菌活性を増強させている可能性が示唆された。
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