研究課題/領域番号 |
21K15287
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
高山 健人 福山大学, 薬学部, 講師 (60568559)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大黄甘草湯 / 腸内細菌叢 / 腸管免疫応答 / 短鎖脂肪酸 / 免疫グロブリンA(IgA) |
研究実績の概要 |
緩下薬である大黄甘草湯の下剤効果は食餌に起因した腸内細菌叢の変化によってその作用発現が異なることを明らかにしてきたが、大黄甘草湯の効果と腸内細菌叢の変化との因果関係を証明するには至っていない。これまでの研究で腸内細菌叢の変化に腸管免疫が関与する可能性を示したことから、この因果関係を解明するためには腸管免疫に着目する必要があると考えた。 そこで本研究では、大黄甘草湯の下剤効果を制御する大黄成分 rhein 8-O-β-D-glucopyranoside(RG) や没食子酸などが及ぼす腸内細菌叢の変化を介した腸管免疫応答への作用を明らかにし、漢方薬と腸内細菌叢のクロストークの因果関係の解明を目的とした。 現在までに、大黄甘草湯の主有効成分であるセンノシドA(SA) からレインアンスロンに至る腸内代謝に及ぼすRGや没食子酸などの影響を検討した。その結果、RGは高炭水化物および高脂肪飼料摂取下においてレインアンスロンの産生量を有意に増加した。しかし、没食子酸などは高繊維飼料摂取下においてレインアンスロンの産生量を抑制しなかったことから、下剤効果を抑制する作用は別の因子である可能性が示唆された。また、腸内細菌の過度な増加などを制御する免疫グロブリンA(IgA)について、大黄甘草湯の投与前後でIgA結合細菌種が変化するか検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食習慣による腸内細菌叢の変化に着目し、大黄甘草湯の下剤効果の発現と食習慣による腸内細菌叢の違いとの関連性を検討した。その結果、高炭水化物および高脂肪飼料摂取下の腸内細菌叢において大黄甘草湯の下剤効果は促進され、その効果は大黄に含まれるRGが腸管炎症を惹起させるEnterobacteriaceaeを増加させることで発揮することを明らかにした。そこで大黄甘草湯の下剤効果の発現とEnterobacteriaceaeなど腸内細菌叢の変化との因果関係の解明を進めるべく、腸内細菌叢を制御するIgAや短鎖脂肪酸などメタボロームの変化を解析したところ、大黄甘草湯の投与により、短鎖脂肪酸の産生に影響を与え、IgAが結合できる細菌の制御が効かなくなることで腸内細菌叢の構成が大幅に変化していることが明らかとなった。 一方で、高食物繊維飼料摂取下の腸内細菌叢において、大黄甘草湯の下剤効果は反対に抑制され、その効果は大黄に含まれる没食子酸などが関与することを明らかにした。 その作用として没食子酸などはセンノシド代謝を抑制するわけではなく、別の作用機構により抑制の関わっていることが強く示唆された。そこで、IgAや短鎖脂肪酸の変化を見たところ、大黄甘草湯の投与によって短鎖脂肪酸の産生量は投与前のレベルに回復し、また、IgAによる細菌種の制御が維持され、大黄甘草湯の下剤効果の抑制に寄与した可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
現在、短鎖脂肪酸の産生やIgAの制御にRGや没食子酸などが直接的に関与しているか詳細な解明を進めている。また、マウス腸内IgAの定量解析も進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度では、本年度で得られた結果もとに、漢方薬と腸内細菌叢のクロストークの因果関係を探るべく、IgAや短鎖脂肪酸など腸内メタボロームの変化に与える大黄甘草湯成分を用いた詳細な研究が必要となる。そのため、生薬成分の単離や、下剤活性および腸内細菌叢の変化を評価するための実験消耗品購入費や実験動物購入費が引き続き必要となる。 また、本申請課題を進めるにあたり生じた新たな課題として、想定していた腸内細菌叢の解析手法だけではなく、新たな解析手法の導入が必須となったことが挙げられる。そのため、次年度の補助金では、腸内細菌叢を詳細に解析するための試薬等の購入を計画している。
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