本研究では、薬剤を持続的に接着しにくい口腔内の歯間隣接部において、効果的にかつ効率よく薬剤を送達することが可能なオーラルケア予防デンタルフロス開発という歯周病の根治・予防につながる技術開発を目的としており、前年度までに「①電界紡糸法を利用した適度な力学的特性を持つナノファイバーデンタルフロスの開発」、「②作製したデンタルフロスへの効果的な微粒子製剤の搭載方法の決定」を行った。まず①では、酢酸フタル酸セルロースを基剤として、生体親和性の高いシルクフィブロインを添加した混合溶液を電界紡糸法によりナノファイバー化し、疑似唾液中では2週間ほどシート形状を保ち自ら分解するような挙動は観察されなかった。次に②では、マクロライド系抗菌薬の一つであるエリスロマイシンをモデル薬物として用いて、薬物徐放性ポリ乳酸・グリコール酸共重合体微粒子を調製後、①で得られたナノファイバーシートへ微粒子を噴霧するコーティングタイプと、ナノファイバー調製時に直接微粒子を分散させたマトリクスタイプの調製を行った。コーティングタイプとマトリクスタイプでは薬物搭載効率では後者が優位性を示したものの、水を溶出液とした場合の薬物放出挙動は異なり、コーティングタイプでは微粒子中の薬物の拡散が、マトリクスタイプではファイバーを含め拡散距離が大きくなったことによる持続放出の傾向が見られた。 最終年度では、「製剤切り離しメカニズムの動的粘弾性測定を用いた定量的解析と溶出挙動の分析」を行った。薬物放出速度、疑似唾液に浸したシートの動的粘弾性並びにシートの膨潤性、シート構造の厚さや表面構造について測定し、動的粘弾性と薬物放出の関係性について検討した。シート基剤である酢酸フタル酸セルロースの粘性の寄与の度合いが高まるにつれて薬物放出速度が増加する結果となった。
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