研究課題/領域番号 |
21K15304
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
楠瀬 翔一 東京理科大学, 薬学部薬学科, 助教 (60868470)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経活性ステロイド / アロプレグナノロン / 抗不安薬 / LC/ESI-MS/MS |
研究実績の概要 |
まず,脳内アロプレグナノロン (AP,神経ステロイドの一つ) 生合成促進剤の簡便なスクリーニング系の開発を目指した.すなわち,培養細胞を用い,薬剤処理に伴うAP産生量の変動を同位体標識誘導体化と高速液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析 (LC/ESI-MS/MS) により把握する手法の開発を試みた.AP生合成能を有していることが報告されているC6細胞 (ラットグリア細胞由来) に対しVehicle処理を行った群の培養上清抽出液をGirard試薬P (GP) で,薬剤処理を行った群のそれを重水素標識GPで誘導体化後,これらを等量混合し,LC/ESI-MS/MSに付し,得られたピーク面積を比較した.脳内でのAP生合成促進作用を有するフルオキセチンをC6細胞に処理することで,その培養上清中のAP量はvehicle処理のそれと比較し有意に増加した.一方,AP生合成を阻害するフィナステリドを処理すると,上清中AP量は有意に減少した.このように,開発した系により薬剤のAP生合成促進/阻害作用を判別できることが確認された.この系でフルオキセチンと類似の構造を持つデュロキセチンを試験したところ,上清中AP量は有意に増加し,本薬剤がAP生合成促進作用を有することを見出した. また,GPと重水素標識GPを用い,ラットの脳内APレベル変動を解析するためのisotope-coded derivatization (ICD) を基盤とするAPの高感度かつ信頼性に優れるLC/ESI-MS/MS定量法の開発した.本測定系により生理食塩水を腹腔内投与されたラットの脳内APレベルを測定したところいずれも定量下限未満であったが,フルオキセチン投与に伴い増大した脳内APレベルを定量できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた通り,中枢神経系由来の細胞株を用いてAP生合成を促進する薬剤を探索するための系を開発することができた.実際にフルオキセチンによる培養上清中AP量増大,フィナステリドによるAP量減少を確認でき,この系が脳内AP量を変動させる薬剤の探索に有用である可能性を示した.また,デュロキセチンが脳内AP生合成促進作用を持つ可能性を発見した. in vivoの検討では,当初マウスを使用する予定であったが,コントロール群においても脳内AP高値を示す個体が多く,また個体差の影響が大きいことが判明した.そこで,使用する動物をラットに変更した.その後,ラット脳内APを正確に定量するためのLC/ESI-MS/MS定量法を開発することができた. 以上より,研究は「おおむね順調に進行している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
前年度に構築した細胞株を用いたスクリーニング系を利用し、既存薬のAP生合成系への影響を確認する.一部の抗うつ薬で脳内APを上昇させる可能性が報告されているため,まず既存の抗うつ薬をスクリーニング対象とする.また,AP生合成の促進効果が知られているフルオキセチンやパロキセチンと同様の構造(アリールオキシプロパンアミン構造)を有する医薬品についても対象とする.その他,AP上昇効果が得られた医薬品の構造の傾向から、類似構造を有する医薬品について対象とする. 次いで,上記の検討にてAP生合成促進作用が確認された医薬品をラットに投与し,脳内APを上昇させるか確認する.
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