研究課題/領域番号 |
21K15311
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
薄田 健史 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (50880689)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | HLA / 薬物過敏症 / 細胞内エネルギー代謝 / CD8陽性T細胞 |
研究実績の概要 |
今年度は当初の計画を変更し、低栄養状態でのCD4+T細胞除去HLA-B*57:01遺伝子導入マウス(B*57:01-Tg)におけるアバカビル過敏症発症の変化をより詳細に解析した。具体的には、(i)マウス耳介リンパ節中CD8陽性T細胞のエフェクター機能(炎症性サイトカイン(IFN-γ)の分泌)、(ii)皮膚炎の重症度の評価に有用な血清中のThymus and activation-regulated chemokine(TARC)量、(iii)耳介組織での皮膚傷害の程度をそれぞれ評価した。その結果、アバカビル投与40%カロリー制限食給餌B*57:01-Tgマウスでは通常食給餌群とは異なり、(i)IFN-γ産生CD44highCD8+ T細胞の割合の増加、(ii)血清中TARC量の増加、(iii)皮膚組織へのCD8+ T細胞の浸潤、のいずれも認められなかった。さらにCD8陽性T細胞における解糖系速度およびミトコンドリア酸素消費量を細胞外フラックスアナライザーを用いて測定したところ、いずれも40%カロリー制限食給餌B*57:01-Tgマウスでは通常食給餌B*57:01-Tgマウスと比較して顕著に低下していた。 次に、アバカビル過敏症発症におけるCD8陽性T細胞内の解糖系の重要性を証明するため、解糖系の阻害剤である2-Deoxy-D-glucose (2-DG)を通常食給餌群に投与した条件を検証した。その結果、2-DG投与条件においても同様に(i)CD8陽性T細胞のエフェクター機能の増加、(ii)血清中TARC量の増加、(iii)皮膚組織へのCD8+ T細胞の浸潤、のいずれも認められなかった。 以上より、HLA多型の関わる薬物過敏症の発症にCD8+ T細胞内のエネルギー代謝が関与することが示唆され、特に解糖系が重要な役割を担っていることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度では、低栄養状態のアバカビル投与B*57:01-Tgマウスにおいて「CD8陽性T細胞内の解糖系の低下」と「CD8陽性T細胞活性化の抑制」との二つの現象を観察できたに過ぎなかったものの、今年度では解糖系阻害剤を用いた検討によりその因果関係を証明することができた。すなわち、薬物過敏症の発症におけるCD8陽性T細胞内のエネルギー代謝環境の重要性を見出せたものと捉えている。 よって、本研究は計画的かつ順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は当初の計画通り、アバカビル感作B*57:01-TgマウスのCD8陽性T細胞および血清についてメタボローム解析を実施する。生成代謝物の網羅的な解析により、アバカビル過敏症発症において重要なエネルギー代謝物・代謝経路を同定する。また、見出された環境因子候補代謝物・経路については各種阻害剤を用いてその重要性を証明し、最終的に薬物過敏症の個人差を生み出す重要な環境因子として位置づけられるか検証する。 加えて、ヒトの生理的条件に近い栄養状態での追加検証を実施するために、糖質制限食・高脂肪食給餌条件についても今年度と同様の手法で検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究所全体の改修工事により2ヶ月程度実験ができない期間があったため、当初の計画通り予算が執行できなかった。 次年度では新しい研究所にて、未使用額を含めて滞りなく研究遂行する予定である。
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