研究課題/領域番号 |
21K15315
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
前田 仁志 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 助教 (80791483)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マクロファージ / 線維芽細胞 / 癌細胞 / アルブミン / 遺伝子工学技術 |
研究実績の概要 |
難治性癌に対する治療効果の向上には、癌細胞への攻撃だけでなく、「癌細胞癌細胞-癌微小環境ネットワーク」の破綻が重要視されるようになってきた。これは、癌微小環境を構成する腫瘍関連マクロファージ(TAM)や癌関連線維芽細胞(CAF)などの細胞群が癌細胞の増殖・浸潤・転移などを司るためである。申請者はこれまでに、「癌微小環境」の破綻を目的として、TAM/CAF二重標的化担体である高マンノース糖鎖を含有した組換え型マンノースアルブミン(Man-HSA)へポリエチレングリコール(PEG)を1分子のみ付加したMonoPEG-Man-HSAを作成した。PEG化によりMan-HSAの腫瘍移行性は向上し、自身の高マンノースを介してTAMに発現する1型マンノース受容体(MRC1)ならびにCAFに発現する2型マンノース受容体(MRC2)を選択的に認識することを実証した。本研究では、新たに「癌細胞-癌微小環境ネットワーク」のより効率的な破綻を企図し、TAM/CAFに癌細胞を加えた三重標的化を可能とする包括的な癌Drug Delivery System(DDS)担体として、PEGの代わりにHSAを接合したHSAヘテロ2量体(HSA化Man-HSA)の開発を試みる。さらにこの担体をナノ粒子化、抗癌剤を搭載し、その治療効果(抗腫瘍・抗転移効果)及び安全性を2種類の同所移植膵臓癌モデルマウスを用いて検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイトカイン刺激によりTAMを模倣したMRC1高発現細胞、CAFを模倣したMRC2高発現線維芽細胞を調製した。それら細胞に加え、ヒト膵臓がん細胞 (SUIT-2) とマウスメラノーマ細胞 (B16F10) に対し、2種類のFITC標識化HSA化Man-HSAとFITC標識化HSA二量体及びMan-HSA二量体を添加し、細胞内移行性を評価した。その結果、いずれの細胞群に対しても、アルブミンの二量体化あるいは糖鎖の付加により細胞内移行性が促進されることを確認した。興味深いことに、今回用いたがん細胞表面にはマンノース受容体の発現をほとんど認めないものの、いずれのがん細胞においても細胞内移行性はMan-HSAに由来する糖鎖が存在することで増強された。過去に、マンノースアルブミンのナノ粒子がヒト回盲腺がん (HCT-8) 細胞に発現するグルコーストランスポーター (GLUT-1) を介して細胞内へ移行することが報告されている。 従って、2種のHSA化Man-HSAあるいはMan-HSA二量体に関しても、糖輸送経路を介して細胞内に一部移行した可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
血中、腫瘍及び臓器分布や腫瘍組織細胞群(癌細胞、TAM、CAF)へのHSA化Man-HSAの移行性は、2種類のHSA化Man-HSAを125I及び111InあるいはFITC及びCy-5標識し、健常及び膵臓癌同所移植マウス(SUIT-2)で検討する。この検討で、癌細胞/TAM/CAFへの移行性に優れたHSA化Man-HSAをナノ粒子化する。具体的には、HSA化Man-HSAの分子内ジスルフィド結合をグルタチオンにより還元後、エタノールによる脱溶媒和を介した分子間ジスルフィド結合の形成によりナノ粒子を作製する。なお、作製における各反応段階の条件を最適化することで、粒子径の調節が可能である。作製したHSA化Man-HSAナノ粒子の体内動態を解析する。その際、ナノ粒子内外にPTXを担持させた薬物結合型ナノ粒子も同様に解析する。なお、薬物結合による粒子径の変化を確認し、必要に応じて再度腫瘍移行性を評価する。最適化した薬物結合型ナノ粒子を2種類の膵臓癌同所移植マウス(PAN-02、SUIT-2)に投与して、in vivoでのTAM及びCAF阻害活性や抗腫瘍効果(腫瘍サイズ、腫瘍マーカー、生存率)、肝・肺転移抑性作用、安全性を評価する。
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