研究課題
ニーマン・ピック病C型(NPC)は、リソソーム内にコレステロールなどの脂質が異常蓄積することで、重篤かつ進行性の中枢神経・肝障害を呈する先天性の稀少難病である。現在、コレステロール輸送能を持つシクロデキストリン(CD)誘導体である2-ヒドロキシプロピル-β-CD(HPβCD)を治療薬候補とした治験が展開されているが、効果の頭打ちや聴覚障害といった課題を抱えている。本研究では、これらの課題を克服する次世代型コレステロール輸送担体の創出に向け、以下3つの検討を行う。1)CD誘導体による病態改善ならびに聴覚毒性発現の機構を調査する。2)新規CD誘導体ライブラリーを用いたコレステロールとの分子間相互作用解析から、最適な治療薬候補を選別する。3)選別されたCD誘導体を用いて、病態モデルマウスに対する治療効果および安全性を評価する。1)齧歯類および患児由来のNPC病態モデル細胞にCD誘導体を暴露し、病態表現型であるコレステロール蓄積ならびにオートファジー障害に対する効果を経時的に追跡した。これにより、オートファジー障害の改善に先行してコレステロール蓄積が改善されることを示唆する結果を得た。また、新規構築したCD誘導体ライブラリーから、マウス蝸牛由来の外有毛細胞前駆細胞に対する聴覚細胞毒性の低い誘導体を抽出した。2)新規CD誘導体ライブラリーについて、コレステロールとの分子間相互作用を網羅的に解析したところ、臨床開発中のHPβCDとは異なるコレステロール包接様式をとる誘導体を複数見出した。興味深いことに、外有毛細胞前駆細胞に対するこれら誘導体の聴覚細胞毒性は顕著に低かった。3)ライブラリーから抽出し、特許出願したCD誘導体をNpc1遺伝子欠損マウスに皮下または微量脳室内投与すると、主要臓器や聴覚に対する毒性が出現することなく、NPC病態が顕著に改善された。
2: おおむね順調に進展している
HPβCDおよび新規治療候補CDとコレステロールとの分子間相互作用解析により、それらの包接様式が決定的に異なることを主因として、新規治療候補CDの生体適合性がHPβCDより優れることを報告した(Yamada et al, Br J Pharmacol, 2021)。また、特許出願したCD誘導体に関する検討結果は、海外学術誌に投稿中である。さらに、新規CD誘導体ライブラリーより抽出された複数の治療薬候補についての知見も学術誌投稿に向け準備している。現在、半導体の世界的な供給不足により、細胞処理に必要な機器の導入が滞っているものの、並行して実施している本機器を必要としない他の実験系を前倒しで進められていることから、研究計画は概ね順調に進捗していると評価できる。
現段階で得られている知見をもとに、CD誘導体によるNPC病態改善ならびに聴覚毒性発現の詳細な分子機構を精査する。加えて、外有毛細胞前駆細胞を特殊培養条件で分化誘導することで、より生理的条件に近いin vitro実験系にて、CD誘導体による聴覚毒性発現の機序を検討する。また、CD誘導体ライブラリーから選別された複数の治療候補化合物が持つ分子構造をもとに、NPC治療に最適な構造特性を推定し、新規誘導体の作製および治療薬としての実用性を評価する。
消耗品購入に伴う端数として残額が生じたが、半導体の供給不足で購入できなかった機器の購入費用として充てる予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)
British Journal of Pharmacology
巻: 178 ページ: 2727~2746
10.1111/bph.15464