研究課題
ニーマン・ピック病C型(NPC)は、リソソーム内にコレステロールなどの脂質が異常蓄積することで、重篤かつ進行性の中枢神経・肝障害を呈する先天性の稀少難病である。現在、コレステロール輸送能を持つシクロデキストリン(CD)誘導体である2-ヒドロキシプロピル-β-CD(HPβCD)を治療薬候補とした治験が展開されているが、治療効果が限定的であることや聴覚障害といった課題がある。そこで、これらの課題を克服する次世代型コレステロール輸送担体の創出に向けた検討を行った。本研究では、NPCに病態改善効果を示し、かつ、聴覚毒性を回避しうるCD誘導体の構造特性を予測した。CDのもつ環状構造の内径や置換基の異なる誘導体ライブラリーをもとに、齧歯類および患児由来のNPC病態モデル細胞・マウス蝸牛由来の聴覚モデル細胞を用いて、細胞病変を改善するとともに聴覚細胞毒性の低い誘導体を選抜した。選抜されたCD誘導体とコレステロールとの相互作用様式を、分子間結合解析および溶解度法により推定し、CD-コレステロールの複合体形成における化学量論およびその複合体の安定性が、有効性や細胞毒性発現を制御する因子であることを見出した。各CD誘導体を、Npc1遺伝子欠損マウスに脳室内投与すると、HP-β-CDを凌駕する治療効果を示した誘導体が検出されたものの、全ての有効な誘導体で難聴が誘発された。一方、注目すべき点として、治療効果を持たないCD誘導体は、コレステロールと複合体を形成せず聴覚毒性も示さなかった。この結果を基盤に、聴覚毒性を回避し得る新たなCD誘導体の分子構造を起案・構築したところ、実際にモデルマウスに対する治療効果を発揮しつつ聴覚毒性をほとんど示さなかった。以上から、NPCに対する治療効果の発現ならびに聴覚毒性の回避を達成しうるCDの構造特性について重要な知見が得られた。
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Clinical and Translational Medicine
巻: 13 ページ: e1350
10.1002/ctm2.1350
https://www.miyazaki-u.ac.jp/newsrelease/edu-info/-c.html
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20230908