研究課題/領域番号 |
21K15317
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
志津 怜太 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (50803912)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肝がん / PXR / 上皮間葉転換 / 核内受容体 |
研究実績の概要 |
先行研究により、核内受容体PXRが肝がん細胞の上皮間葉転換(EMT)を抑制することで、肝がんの進行を抑制することが示唆されたため、本研究では、その分子機序解明を目指した。間葉系分子マーカーであるVimentinのプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子上流に組み込んだレポータープラスミド用いて肝がん由来HepG2細胞のEMTを調べたところ、TGF-β処置によりレポーター活性が増加し、EMTの亢進が確認された。このレポーター活性は、ヒトPXRの発現とそのリガンドであるrifampicinの処置により、さらに増強されたため、肝がん細胞におけるPXRの活性化はEMTを促進する方向にはたらくと考えられた。一方、肝がん細胞のEMTは、肝がん細胞の周囲に存在する肝星細胞等からのサイトカインシグナルが重要な役割を担うことが知られている。実際に、肝星細胞由来LX2細胞をTGF-β処置により活性化させ、その培養上清をHepG2細胞に処置すると、レポーター活性が増加した。そこで、肝星細胞の活性化に対するPXRの影響を調べるため、LX2細胞及び他の肝星細胞由来細胞であるTWNT1細胞にPXRを安定発現させ、rifampicinを処置した。その結果、TGF-β依存的な両細胞の活性化は、PXR活性化により顕著に抑制されることが、細胞の形態学的所見に加えてα-smaやFibronectinなど活性化マーカーの定量的逆転写PCR、ウェスタンブロット等により得られた。以上より、PXRは肝がん周辺細胞である、星細胞の活性化を抑制することで肝がん細胞のEMTに対して抑制的にはたらくと考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた実験等、計画通りに進んでいる。ルシフェラーゼ及び蛍光タンパク質をマーカーとしたEMTの評価系の作製、化合物ライブラリの準備が完了した。糖尿病を背景に高脂肪食摂餌により作製したNASH由来肝がんモデルマウスであるSTAMマウスを用いて、PXR活性化の影響を調べたが、PXR活性化依存的なエネルギー代謝亢進作用により、PXRの肝がん進行への影響評価が困難であった。次年度は、肝がんモデルをSTAMマウスから、HepG2細胞を皮下投与した単がんモデルマウスに変更し、PXR活性化の肝がん進行への影響を調べる。さらに、引き続き分子機序解析を進めつつ、肝がん細胞のEMT抑制作用を有する医薬品を探索・治療効果の検証により、肝がん治療薬候補を見出すことを目的とする。
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今後の研究の推進方策 |
HepG2細胞にVimentinのプロモーター領域を組み込んだレポータープラスミドを安定発現させ、PXR を安定発現するLX2細胞と共培養し、HepG2 細胞のEMTへの影響を調べる。また、創傷治癒アッセイやボイデンチャンバーを用いて遊走性への影響を調べる。PXR依存的なHepG2のEMT抑制に関わるLX2由来の液性因子を明らかにするため、培養上清について各種抗体と磁気ビーズを用いたタンパク質多項目解析を行う。以上により、PXRによる肝がん進行調節の分子機序を明らかにする。 前年度準備が完了した化合物ライブラリについて、PXR活性化のインビトロ評価系、EMTの評価系を用いてHepG2細胞EMTへの影響を解析する。候補化合物をHepG2細胞とLX-2細胞を皮下注射し作出した担がんモデルマウスに投与し、腫瘍の数、重量・サイズへの影響、免疫組織染色やウエスタンブロット等によるEMTシグナルへの影響を解析し、新規PXR活性化候補の肝がんの発症、進行に対する影響を検証する。
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