研究実績の概要 |
本研究はチアミントランスポーターとして知られるSLC19A3について、新たに見出されたピリドキシン輸送機能の動物種差(ヒトSLC19A3は輸送機能を有し、マウスSlc19a3は輸送機能を持たない)に着目し、基質依存的な輸送機能の分子機構の解明を目指すと共に、SLC19A3の遺伝子変異に起因する疾患とピリドキシンとの関連性を探るものである。 前年度までに、トランスポーターの基質認識において重要な役割を果たす膜貫通領域(TMD)に焦点を当て、ヒトSLC19A3とマウスSlc19a3の部分アミノ酸配列を組み合わせたキメラ体でのピリドキシン輸送機能の評価を行った。その結果、ヒトSLC19A3の3,4,6番目のTMDが、ピリドキシン輸送機能に関わることが明らかとなった。また、SLC19A3の遺伝子変異は重度の脳神経変性疾患であるBTBGDやLeigh脳症の原因となることが報告されている。そこで、報告されているSLC19A3の遺伝子変異体を作製し、ピリドキシン輸送機能を評価したところ、13種の変異体において、ピリドキシン輸送機能の低下が認められた。 これらを受けて本年度は、ヒトSLC19A3の3,4,6番目のTMDの中で、マウスと異なるアミノ酸残基に着目し、部位特異的変異導入法によりピリドキシン輸送機能に関与するアミノ酸残基の同定を試みた。その結果、ヒトSLC19A3の7つのアミノ酸残基がピリドキシン輸送機能に特異的に関与することが明らかとなり、それらのアミノ酸残基の差異が動物種差の要因となることが示唆された。また、ピリドキシン輸送機能の低下がみられたSLC19A3の遺伝子変異体については、チアミン輸送機能の低下も認められた。したがって、SLC19A3遺伝子変異に起因する病態に、チアミン及びピリドキシンが複合的に関与している可能性が考えられる。
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