本研究は能動輸送型・受動輸送型DDSの観点および薬物放出システムの観点から、DDS製剤中の抗がん剤の腫瘍移行性と抗がん作用を評価し、それらのPKモデルを組み込んだPK/PD解析によりDDSの機能対効果が評価可能な分析法を確立することを目指すものである。令和4年度では、腫瘍単離標本にドキソルビシン(DOX)封入高分子ミセルを灌流し、腫瘍内DOX濃度推移を基に灌流コンパートメント(com)モデルを構築し、DOX封入高分子ミセル速度論解析を実施した。アミド結合を介してDOXを担持した高分子ミセル(Amd型)とpH依存的にDOXを放出可能なヒドラゾン結合を用いた高分子ミセル(Hyd型)を比較した場合、Hyd型の腫瘍内DOX放出速度定数はAmd型より3.46倍高いことが示された。以上のことから、腫瘍単離灌流を用いたcomモデル解析により、機能性高分子ミセルの放出制御能を評価することに成功した。 次に、担癌ラットと腫瘍マイクロダイアリシス法を用いてAmd型とHyd型の基本的な血中動態および腫瘍内動態を評価した。腫瘍移行性について、Amd型は投与後4hの腫瘍移行遅延が観察されたことから、中心→腫瘍com間にガンマ分布型遅延関数を組み込んだ3-comモデルにて解析した。腫瘍comにおけるHyd型の腫瘍移行遅延時間はAmd型と比較して0.11倍短く、腫瘍移行速度定数は3.41倍と腫瘍単離灌流実験の結果に類似することが示された。最後に構築した3-comモデルと腫瘍細胞増殖を表現したPDモデルを連結し解析した結果、Hyd型の薬効指標(TEI)はAmd型と比較して1.47倍高く、腫瘍抑制効果と腫瘍移行速度定数の関連性が示唆された。以上のことから、DDSの機能対効果が評価可能な腫瘍単離灌流モデルおよびPK/PDモデルの確立に成功した。
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