研究課題/領域番号 |
21K15325
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
小川 慶子 立命館大学, 薬学部, 助教 (20844278)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 漢方薬 / 補気剤 / データマイニング / 生薬 |
研究実績の概要 |
本研究テーマでは、気力や体力の衰えを改善する補気剤(漢方薬)について、その「補気」作用の科学的解明を目的としている。「補気」作用は漢方薬に特有の作用であるものの、漢方薬は多成分系の薬であることから相乗・相加効果の影響が想定され、補気作用に寄与する成分やメカニズムの解明は難航していた。そこで、補気剤の含有成分プロファイルを作成し、漢方薬の中医学的作用および西洋医学的作用 (生物活性) との関連を検討することで、成分分析の側面から「補気」作用の解明を目指す。 本年度は前年度に引き続き、補気剤の成分プロファイルの作成、および補気剤の有効性を示す評価指標の作成を中心に研究を実施した。まず補気剤の成分プロファイルの作成について、方剤に含まれる添加物は生薬成分に由来するピークの検出を相対的に低下させるため、添加物の除外手法を確立した。フォトダイオードアレイ検出器を用いたHPLC分析により、構成生薬として人参を含む漢方方剤のクロマトグラムの作成を進行中である。 補気剤の有効性を示す評価指標の作成には、副作用データベースを利用した。昨年度までに医薬品副作用データベース (JADER) を用いて、補気剤の有効性として「抗がん剤による副作用の軽減」を示す研究を行ってきた。報告オッズ比による検討や、抗がん剤による有害事象の発現時期の検討により、補気剤が赤血球減少症の発症時期を遅らせることや白血球減少症の発現リスクを低下させる可能性が新たに示されたものの、患者背景が結果に影響していることが考えられた。そこで補気剤使用群と未使用群で患者背景が均一になるよう傾向スコアマッチング法により調整したのち検討を行ったところ、補気剤使用群では一部の有害事象の発現が抑制されていることが確認された。以上のように、補気剤による抗がん剤の副作用軽減は、補気剤の有効性を示す客観的な指標として使用可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、機器分析による補気剤の成分プロファイル作成、補気剤の作用を客観的に表す作用指標の作成、多変量解析による成分ピークと作用指標の結びつけにより構成される。 補気剤の有効性を示すデータは限られているため、既存のものにくわえ新たな指標についても検討する必要がある。本研究ではこれまでに、副作用データベースを利用することにより補気剤の有効性を示すことができることを見出した。臨床データでは患者背景の差異によるバイアスが課題となるが、バイアスを最小化した場合においても有効性がみられることが確認できている。これまで困難であった補気剤の有効性を客観的に示す手法は確立できており、順調に進行している。 また、補気剤の成分プロファイルの進行については、すでに分析用サンプルの調製法、分析条件の検討は完了しており、分析データの収集段階に進んでいる。多変量解析に際しては入力するデータの表現方法が重要であるが、複数条件で分析データを収集しているため表現方法の検討段階がスムーズに進行すると考えられる。 以上をまとめると、進捗状況はおおむね順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
新年度は、引き続き成分分析によるデータ収集を行い、続いて補気剤の成分プロファイルを作成する。成分プロファイルはデータの表現方法や組み合わせを変えて複数種類作成し、多変量解析により有効性の指標との関連性をそれぞれ検討する。成分プロファイルをあらかじめ複数種作成しておくことで、迅速に適切な成分プロファイルを選択し、また結果を比較することによりどのような種類の情報が補気剤の有効性に関与しているのかを明らかにすることを目指す。くわえて、補気剤の構成生薬レベルでの解析も並行して行い、成分プロファイルを用いた解析結果の検証や考察に利用する。 また、現段階では副作用データベースを用いた補気剤の有効性の評価が順調に進行していることから、引き続き医療データを利用した有効性の評価方法の探索を実施する。副作用データベースにくわえ、医療機関データベースでの補気剤の有効性の検討を行う。機器分析による補気剤の成分の表現と、データ分析による補気剤の有効性の情報を組み合わせることで、補気作用の説明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、データ解析を中心に研究活動を実施したため、試薬・物品の使用が相対的に減少し研究費に余剰が生じた。 2023年度は、成分分析、サンプル調製を実施するため試薬・物品の使用量の増加が見込まれる。さらに、一部の生物活性試験を委託にて行う予定があるため、2022年度の余剰分も2023年度の予定金額に加えた金額で交付を希望する。
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