本研究では、高分子化抗がん剤のがん組織集積性や抗がん効果の増強を目指し、申請者グループが開発したユニークな一酸化窒素(NO)徐放剤(NPB)と、がん指向性に優れるヒト血清アルブミン(HSA)を結合させた、「がん指向性NO徐放剤(HSA-NPB)」の開発に取り組んできた。このHSA-NPBは、がん組織にNOを特異的かつ持続的に作用させることで、がん組織の血流の持続的な増大と、それによる薬物集積増強効果を企図した薬剤である。 まずHSA-NPBの作製法やNPB結合数の定量法の確立に取り組み、本研究では、1分子のHSAに対して、2分子のNPBが結合したHSA-NPBを用いることとした。作製したHSA-NPBからのNO放出性を確認したところ、元のNPBと同様のNO徐放性を確認できた。次に、マウス大腸がん(Colon26)担がんマウスを用いて、薬物のがん組織集積性を評価する色素エバンスブルーとNPBやHSA-NPBを同時投与すると、元のNPBと比較し、HSA-NPBとの併用でより集積性の向上が見られた。続いて、ドキソルビシン封入リポソームと同時投与することにより、ドキソルビシン封入リポソーム単独時より高い治療効果が見られた。 以上の結果のように、高分子化抗がん剤と併用するだけで、そのがん組織集積性や治療効果を増強する、新規がん治療戦略(HSA-NPB併用療法)の開発につながる基礎的な知見が得られた。また本研究においては、HSA-NPBと高分子化抗がん剤を同時に投与しているが、HSA-NPBからのNO放出は緩やかであり、HSA-NPB投与から、数時間後などに高分子化抗がん剤を投与することで、さらなる集積性や治療効果の増強が得られる可能性が考えられる。HSA-NPBと高分子化抗がん剤の投与間隔の最適化などが今後の課題である。
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