心臓の収縮・弛緩に伴う伸展などのメカニカルストレスは、心筋の動的バイオメカニクスを大きく変化させる。しかし、伸展というメカニカルストレスが心筋の収縮力を制御するメカニズムの全容は未だ明らかではない。本研究では、機械受容チャネルであるTRPC6に着目し、マウス心臓から単離した心筋細胞への伸展負荷実験やマウス生体を用いた容量負荷心臓モデル実験でのTRPC6の欠損による影響を調べることで、急性伸展刺激により心筋で誘発される収縮力増加反応であるフランク・スターリング(FS)現象の分子制御メカニズムを解明することを目的とした。これまでにTRPC6が欠損した心筋細胞でFS現象が増強され、それが細胞内亜鉛濃度の増大により生じていることを明らかにしてきた。令和5年度は、TRPC6の欠損により心筋細胞の細胞内亜鉛濃度が増大し、MLC2がリン酸化され、それにより収縮力が増大していることが明らかとなった。さらに、亜鉛の添加実験とトランスクリプトーム解析の結果から、TRPC6が亜鉛トランスポーターを制御して細胞内亜鉛濃度を調整し、収縮力を制御していることが明らかとなった。また、TRPC6の遺伝子欠損マウスで容量負荷心臓モデルを作製し、エコーイメージング技術を用いて調べたところ、個体レベルでも心臓のFS現象が増強されていることが示唆された。以上の結果から、TRPC6が亜鉛トランスポーターの活性化を制御し、細胞内亜鉛濃度を調整し、それがFS現象の制御に関わっていることが明らかとなってきた。
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