研究課題
甲状腺ホルモン(TH)は神経発達・機能維持に必要不可欠なホルモンの一つである。核内の標的遺伝子のTH応答領域に結合するTH受容体に結合し、標的遺伝子の発現を転写レベルで制御する。TH非結合時には、抑制型転写共役因子(NCoRs)からなる複合体により転写が抑制される。周産期にTHが欠乏すると重症な神経発達障害を来すクレチン病(先天性甲状腺機能低下症)を発症することが知られているが、近年、NCoRsに遺伝子異常をもつ場合にも自閉症スペクトラム障害(ASD)などの発達障害を来すことが報告されている。しかし、TH及び転写共役因子による神経発達の制御機構は不明な点が多い。そこでTH及びNCoRsに対して感受性の高い脳領域とされる小脳に注目した。本年度は小脳プルキンエ細胞特異的にCreを発現するL7/Pcp2-CreマウスとNCoR1/SMRT floxマウスを交配することにより、小脳プルキンエ細胞特異的にNCoR1/SMRTを欠失させたマウスを作出した。これらのマウスでNCoR1/SMRTの遺伝子発現が抑制されていることを確認した後に、行動学的実験を行った。その結果、これらのノックアウトマウスはいずれも発育・発達異常は認めなかった。また、小脳機能を反映するロータロッド試験を行ったが協調運動、運動学習に異常は認めなかった。また形態学的評価では、小脳プルキンエ細胞の形態に明らかな異常は認めなかった。そこで今後は近年着目されている自閉症スペクトラム障害(ASD)と小脳の関係性に着目し、社会性・不安・情動の評価を行動学実験により確認する。また遺伝発現調節レベルでの変化の有無を確認していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
小脳特異的なノックアウトマウスの作出に成功し、基礎的な確認実験を完遂することが出来た。今後は本モデルマウスを用いて実験をすすめていく。
今年度は、小脳プルキンエ細胞特異的なNCoR1/SMRTノックアウトマウスの作出と、古典的な小脳機能である協調運動、運動学習の評価を中心に行ったが、行動学的実験では明らかな異常所見は認めなかった。そこで今後は近年着目されている自閉症スペクトラム障害(ASD)と小脳の関係性に着目し、社会性・不安・情動の評価を行動学実験により確認する。また遺伝発現調節レベルでの変化の有無を確認していく予定である。
今年度に購入する予定であった機器を、大学所有の共通機器により代用したため、その分の余剰経費が生じた。本金額分は、現在実験中のサンプルの解析費として使用する予定である。当初の予定よりも、より正確かつ信頼性の高い解析方法を用いることができる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件)
Molecular Metabolism
巻: 53 ページ: 101315~101315
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