本研究では、「痛み経路の一つである『不確帯(ZI)に局在するparvalbumin細胞から出力し、視床後核(Po)を経由後、大脳皮質のDysgranular領域(Dys)に入力する』経路が、雌ではエストロゲンによって制御される」という仮説を検証する予定であった。令和4年度まではPoの痛覚受容細胞の分布の同定を試みたが、令和5年度の所属異動に伴い、電気生理学的実験の継続が困難であったため、痛みにおける免疫細胞の雌雄差に着目して実験を行った。神経回路に限らずに痛みの性差に関してみると、痛みに応答する脊髄の免疫細胞の種類が雌雄で異なるという報告以降、学問領域として注目されている。性ホルモンの中枢・末梢神経系への直接作用に加えて、免疫系を介した間接作用は昔から知られていた。そこで、炎症性疼痛モデルマウスを作製し、痛み行動を観察した結果、雄より雌で痛み行動時間が長いが、中枢の免疫細胞である脊髄ミクログリアを欠乏させた場合、雌雄ともに痛み行動が減少した。しかし、雌雄のミクログリア欠損による痛みの減少度合いに差は無かったことから、このモデルにおいては脊髄ミクログリアの活動に性差はなく、より上位中枢に雌雄で異なる痛み制御システムが存在する可能性が示唆された。また、坐骨神経部分結紮による慢性疼痛モデルマウスの脳領域を採取し、慢性疼痛によるミクログリア関連遺伝子の発現量の変化について調べた。慢性疼痛に伴ってショ糖嗜好性も減少したことから、うつ様状態も示し、前帯状皮質や側坐核において、ミクログリア関連遺伝子の増加も認められた。現在は、雌雄差の有無や性ステロイドの影響を調べるため、卵巣除去マウス、卵巣除去後エストラジオールを留置したマウス、精巣除去マウス、精巣除去後テストステロンを留置したマウスにおいて、比較している。
|