本研究では、PDの病態発症・進行機序の要因としてKATPチャネルの機能低下の仮説のもと、生化学ならびに行動薬理学的解析を行った。 昨年度までに、amantadineの新規作用機序として、KATP (Kir6.1/Kir6.2) チャネルの閉口を介した細胞内Ca2+濃度上昇による神経細胞の興奮性亢進作用を見出した。さらに、野生型ならびにKir6.2欠損マウスに対してドパミン神経の細胞死を誘導する神経毒 MPTPを投与し、運動機能を検討したところ、野生型マウスではMPTPによって惹起された運動機能障害が確認されたが、Kir6.2欠損マウスでは異常は認められなかった。併せて、MPTP処置した野生型マウスで確認された運動機能障害は、amantadineの投与によって改善されることも明らかとした。 最終年度となる2023年度は、KATPチャネルによる神経細胞死の制御メカニズムを中心に検討を行った。黒質緻密部におけるドパミン神経の変性・脱落を免疫染色法で確認したところ、野生型マウスではMPTPによる黒質緻密部におけるドパミン神経の変性・脱落が確認された一方で、Kir6.2欠損マウスではMPTPによるドパミン神経の変性・脱落が顕著に抑制された。併せて、Kir6.2を過剰発現したラット由来のドーパミン作動性神経細胞では、神経毒MPP+による神経細胞死がamantadineの前処置によって抑制されることも明らかとした。 申請者はPDモデルマウスにおいてKir6.2チャネル欠損が病態発症を抑制することを同定し、加えて、amantadineによるKATPチャネル抑制作用がPD治療に繋がる可能性を見出した。KATPチャネルの制御という従来とは異なる新規作用機序によるPD治療のメカニズム解明を目指した本研究成果は、学術的意義が極めて高い研究課題と考えられる。
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