研究課題/領域番号 |
21K15352
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
山本 梓司 埼玉医科大学, 保健医療学部, 助教 (70823318)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多発性硬化症 / クプリゾン / 2ccPA |
研究実績の概要 |
本研究は、多発性硬化症(MS)の特徴である脱髄を抑制可能な化学物質を探索し、新規MS治療薬として応用することを目的としている。 多発性硬化症(MS)は、神経軸索を取り巻くミエリンが破壊される「脱髄」を特徴とし、運動障害や感覚障害を引き起こす中枢神経系の難病である。我が国においても年間700 人以上の発症が報告され、約20,000 人を超えるMS患者が脱髄による神経障害に苦しんでいる。MS病態の詳細は未だ明らかとなっておらず、有効な病態修飾を行わなければ、いずれ二次進行型に移行し、身体障害や高次脳機能障害が生じる。現在実用化されているMS治療薬は自己免疫抑制作用が主流であり、免疫抑制作用による副作用の問題だけでなく、進行性MSに対する効果が得られず病態が進行した場合には効果は認められていない。そのため脱髄の進行を抑制可能で、安全性の保たれた新しい薬効を持つ根本的治療薬が強く求められている。 我々はMS脱髄モデル(CPZ: cuprizone)マウスを作製し、神経炎症抑制およびミエリン再生効果の期待できる2ccPA類縁体や天然資源由来抽出物を投与し、脱髄に対する効果を検討した。2ccPA類縁体は2ccPAの代謝構造物である。2ccPAは安全性試験をクリアし化学合成法が確立されている。また、天然資源由来抽出物は健康食品として食用されている物質である。いずれの物質も安全性が確保された経口投与可能な物質である。 2ccPA類縁体および天然資源由来抽出物は、CPZ誘導脱髄を抑制し、運動機能障害の改善効果を示した。現在、脳梁組織を用いたLipidmics解析を用いて、脱髄抑制に際に変動する活性成分の同定を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MS脱髄モデルマウスを作製し、2ccPA類縁体および天然資源由来抽出物を投与し、脱髄抑制効果の検討を行った。 2ccPA(2-carba cyclicphosphatidic acid)は神経保護効果を持つ化学合成された脂質メディエーターであり、我々は既に2ccPAがMSモデルマウスの脱髄進行を抑制することを明らかとした。しかし、生体内で代謝され化学構造の変化が起こる可能性が示唆され、2ccPAの代謝構造物である2ccPA類縁体の脱髄に対する効果を検討した。2ccPA類縁体は、脱髄抑制効果、運動機能改善効果を示した。2ccPA類縁体は、LPA受容体の活性化とオートタキシン(ATX)阻害作用により脱髄抑制効果を発揮する可能性が示された。 天然資源由来抽出物であるキノコ類や甲殻類などのBiological response modifier(生体応答調整物質)は、ガンや高血圧、生活習慣病の予防効果をもつ健康食材として知られている。本研究は、MSモデルマウスに数種類の食用キノコおよび甲殻類由来物質を摂取させ、脱髄に対する効果を検討した。検討した食用キノコのうち4種、甲殻類由来物質1種において、脱髄抑制効果、運動機能改善効果を示した。Lipidmics解析により、いくつかの長鎖不飽和脂肪酸が脱髄抑制における活性成分であることを特定した。
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今後の研究の推進方策 |
今回特定した長鎖不飽和脂肪酸の脱髄抑制およびミエリン再生効果について検討する。長鎖不飽和脂肪酸を投与した CPZモデルマウスを作製し、脳組織を採取し、病理学的解析(ミエリン染色、神経炎症関連分子の免疫染色など)、生化学的解析(遺伝子発現解析、タンパク質発現解析など)を行い、神経炎症やミエリン再生に関与する因子について発現解析を行う。長鎖不飽和脂肪酸が脱髄抑制因子となることを証明する。 また、2ccPA類縁体や天然資源由来抽出物は、脱髄病変部の活性型ミクログリアの発現量を抑制することを明らかとしている。活性化ミクログリアはMSの病態進行の際、TNF-αなどの炎症性サイトカインのみならず、NOや活性酸素、グルタミン酸を産生し、直接的に神経細胞を障害するほか、ミトコンドリア機能異常や軸索輸送障害を誘発し、最終的に神経細胞死を誘導する。ミクログリア除去モデルマウスを作製し、脱髄抑制における炎症性サイトカインの発現解析や、ミクログリアの脱髄病変部位における局在や分布について検討し、2ccPA類縁体や天然資源由来抽出物が直接ミクログリアに作用し、神経炎症を抑制することを明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、Lipidmics解析を用いて、脱髄抑制に密接に関係する長鎖不飽和脂肪酸を明らかとした。その後、長鎖不飽和脂肪酸を購入し、細胞レベル、動物レベルで実験を行い、標的分子を同定するため実験を進めていた。しかし、コロナ禍による国際物流の停滞により、試薬の入手が困難な状況にあり、発注申請から数か月経つが未だに長鎖不飽和脂肪酸は納品されておらず、実験を進めることができない状況であった。 そこで、次年度に予定していたミエリン化に関与する遺伝子およびタンパク質の発現解析を優先し、入手可能な試薬について購入手続きを行ったが、結果的に次年度使用が生じた。 本研究は実験方法について前後しているが、当初の研究実施計画に基づき進行中である。
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