研究課題/領域番号 |
21K15354
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
西中 崇 近畿大学, 医学部, 講師 (50786184)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 血管擬態 / がん細胞 / 終末糖化産物 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
昨年度は、血管擬態(vasculogenic mimicry、VM)の評価系においてこれまで確立していたマウス大腸がん細胞株Colon26に加えて、ヒトがん細胞株NCl-H446(小細胞肺がん)、MCB-MB231(乳がん)のVMを確認した。さらに、抗腫瘍免疫に関与するstimulator of interferon genes (STING)シグナルに対して終末糖化産物(advanced glycation end-products、AGEs)が抑制作用を示すことを見出した。令和4年度は、このAGEsによるSTINGシグナルの抑制機序について解析を進めた。 ヒト単球系細胞株THP-1細胞に対してSTINGアゴニストcGAMPを用いた in vitro系において、AGEsは用量依存的にTBK1/IRF3のリン酸化を低下させ、下流のサイトカイン産生を抑制した。cGAMPは細胞質内でSTINGに結合することによりシグナルを活性化させるが、遺伝子導入試薬を用いたcGAMPの細胞内移行に対してAGEsは影響しなかった。さらに、Biacoreを用いてAGEs/cGAMP/STING間の分子間相互作用を解析したところ、cGAMP/STINGの相互作用は観察されたが、AGEsはcGAMPならびにSTINGに対して分子間相互作用は認められなかった。スカベンジャー受容体CD36の中和抗体の処置によりAGEsによるSTINGシグナルの抑制作用が減弱した。一方、他のスカベンジャー受容体であるSR-Aの中和抗体、FPS-ZM1(RAGE antagonist)、LPS-RS(TLR4 antagonist)は、AGEsによる抑制作用に影響しなかった。したがって、AGEsはCD36を介してSTINGシグナルを抑制することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AGEsがCD36を介してSTINGシグナルを抑制することを明らかにし、その成果を論文として報告した。STINGシグナルの評価系を確立することができたため、ヒトがん細胞株を用いた解析を進める準備ができた。AGEsの抑制機序解明の一環として、AGEsとの分子間相互作用を評価するBiacoreの実験系を確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討からAGEsによるVM形成促進作用とSTINGシグナルの抑制作用にスカベンジャー受容体が関与することを示唆する知見を得ている。今後は、AGEsとスカベンジャー受容体の関係について詳細な解析を進めていく。具体的には、スカベンジャー受容体が関わる細胞内シグナルや細胞内取り込み/分解系に着目して検討を行う。さらに、AGEs以外のスカベンジャー受容体に作用する因子を用いた検討を行う。 がん微小環境を形成する免疫系細胞や血管内皮細胞におけるSTINGシグナルの活性化は、抗腫瘍免疫を増強することが示唆されている。一方、がん細胞のSTINGシグナルは生存の維持機構や転移の抑制機構など、相反する様々な作用が報告されている。これまでに確立している評価系を用いてVM形成におけるSTINGシグナルの役割を解析する。
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